ジャーナリストの田原総一朗氏は、岸田文雄首相の経済改革に注目する。
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衆院選を受けた特別国会が10日に召集され、岸田文雄首相が午後の衆参両院の本会議で、第101代首相に選出された。夜の官邸での記者会見で岸田首相は、成長と分配を両輪とした「新しい資本主義」の実現に全力を挙げる、と強調した。
この「新しい資本主義」の実現こそが岸田内閣の最も重要な課題である。
第2次安倍晋三政権の発足後、安倍首相は日銀の黒田東彦総裁と組んで、異次元の金融緩和を実施すると宣言した。つまり、通貨をどんどん発行して内需を拡大させ、経済を成長させる、というのである。
だが、異次元の金融緩和は実施したが、内需は拡大せず、経済も成長しなかった。アベノミクスは成功しなかったのである。
安倍首相はそのことを認識すると、19年に西村康稔氏を担当相に起用して、日本の産業構造を抜本的に改革することを決断した。
そのとき私は、経団連会長、トヨタ社長、パナソニック社長、NTT社長などに取材したが、彼らはいずれも日本経済に強い危機感を抱いていて、このままでは日本の企業は10年も持続できない、と語った。いわゆる日本的経営では、従業員たちの目標は係長、課長、部長、役員などと、企業の中でえらくなることなので、上役に気に入られることに全力を傾け、突破力というものがない。そこで、従業員たちがチャレンジ精神を持つような企業にしようということであった。
安倍首相は途中で辞任したが、プロジェクトは作業を続け、20年9月30日にプロジェクトの幹部たちが、経団連やトヨタ、パナソニック、NTTの幹部たちと会談して、プロジェクトの構想に産業界も同意することになった。
ところが、その後、菅義偉内閣が竹中平蔵氏とアトキンソン氏を中軸にした成長戦略会議なるものを打ち出した。これは安倍首相の構想とは全く無縁である。
菅首相は竹中氏をとても信頼している。私は竹中氏とは懇意なので、直接会って、なぜこういうことになったのか、と問うた。