
ISUグランプリシリーズNHK杯のアイスダンスで、結成2季目の村元哉中、高橋大輔組が日本選手最高の6位という大躍進を見せた。AERA 2021年11月29日号では、来年2月の北京五輪出場へ向けてさらなる飛躍が期待される村元・高橋組が心境を語った。
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エキシビション前の空き時間。取材に応じた高橋大輔(35)の言葉には自信がにじんでいた。
「演技としても大きなミスなく、予想していた以上の評価をいただけた。一つ自信になった試合だったと思いますし、僕自身はスタートラインに立てたのかなと」
村元哉中(むらもと かな・28)とのアイスダンス挑戦を表明したのは、2019年の秋だった。あれから2年。コロナ禍の影響もあって、海外のトップカップルと対戦するのはこのNHK杯が実質初めてだった。だから、大会前日の公式練習では「正直、不安な部分は大きかった」と漏らした。
ただ今大会、コーチのマリーナ・ズエワ氏はこんな言葉を繰り返したという。
「今の経験は、今しかできない。だから、今を楽しみなさい」
「お客さんも、あなたのスケートが見たくて楽しみに応援してくれている。『うまくやらなきゃ』ではなく、『どうやったら楽しめるか』を考えながら滑って。自分たちが楽しまないと、周りに伝わらない」
アドバイス通り、今大会の村元、高橋組の表情には楽しげな笑みがあふれていた。大舞台で笑えたのは、積み上げてきた努力に自信があったからだろう。
高橋が言う。
「緊張感の中でも落ち着いて演技ができました。練習をちゃんとしてきたからこそ」
確かな成長が透けたのは、例えばリフトだった。
シングルスケーターとしてキャリアを積み重ねてきた高橋にとって、女性を持ち上げるリフトは最大の難関だった。実際、19年秋の会見では「一番大きな課題にはなってくる」と懸念を語り、昨年のNHK杯ではぐらつくような場面が目立った。
だが、今大会は安定感抜群。リズムダンスでは、女性を両肩に乗せて回転するローテーショナルリフトで最高の「レベル4」を獲得。フリーでも、昨季とは見違えるような数の「4」をスコアシートに並べてみせた。