伝説として名高いアップルビル屋上でのライブ。ビートルズ最後のライブ・パフォーマンス
(c)2021 Apple Corps Ltd. All Rights Reserved.
伝説として名高いアップルビル屋上でのライブ。ビートルズ最後のライブ・パフォーマンス (c)2021 Apple Corps Ltd. All Rights Reserved.

 何より音楽が好きなキュートな仕事師と、その思うようにやりたがる傾向を押しつけがましいと感じるようになったカリスマ的兄貴分。二人の関係は強いきずなで結ばれつつも、微妙で難しい水位に達していたのだ。

 20日、ビートルズはだだっ広くて寒そうだった映画撮影スタジオを離れ、本拠地アップルビルの地下スタジオに移り、レコーディングに着手する。バンドは一気に活気づき、ジョンのはつらつぶりは見違えるようだ。メンバー個人が作ってきた曲がスタジオに持ち込まれ、みんなでやりとりしながら歌詞やメロディーを仕上げていく。見ているだけで心躍る光景だ。

 自分の意見を通して復帰したジョージも積極的に関わる。28日、自身の代名詞となる名曲「サムシング」を披露。思いつかなくて半年も苦労しているという歌詞の一部をジョンとポールに相談した。29日にはジョンに、

「曲がたくさんできたので、ソロアルバムを出したい。ビートルズとしての活動も、その方がやりやすくなる」

 と意欲を伝えた。ソングライターとして大きく開花しようとしていたジョージ。ジョンとポールの弟分に甘んじることは難しかったようにも思える。

 グループ解散に決定的な影響を及ぼす人物の影を、ピーター・ジャクソンの編集は忘れない。ニューヨークのビジネスマン、アラン・クライン。22日夜に会い、深夜まで語り合ったジョンはクラインにほれこみ、28日、「本当にすごい男だ」とジョージに伝える。「これからクラインが来るぞ」とジョンはワクワクしている。

 29日、現場でセッションを仕切った一人、グリン・ジョンズがジョンとヨーコに「クラインは頭がいいが変わった男」なので警戒するようアドバイスするが、ジョンは沈黙。後にセッションの音源を素材にジョンズがつくったアルバム「ゲット・バック」が2度にわたり棚上げされたのも、このときのことが影響したのではないかとの説もある。

 クラインは5月、ビートルズのビジネス管理を担う契約を結び、ビートルズの会社アップルの経営を事実上握る。ただ一人拒否したポールは孤立し、グループは修復困難な内紛に突入していくのだ。

 8時間のドキュメンタリーは、1月30日のアップルビル屋上でのライブ演奏でクライマックスに達する。42分間、ノーカットで4人の姿を見ることができる。それまでの不和や対立、争いの数々も、すべて洗い流したような(そんなことはないだろうが)圧倒的なパフォーマンス。年季の入ったビートルズファンなら、

「生きててよかった」

 と思わずにはいられまい。目と目を見合わせ、ニヤッとうなずき合うジョンとポール。見ているこっちもうれしくなってくる。

 ドキュメンタリーの終わり、ジョンが「おやすみ、ポール」と声をかけると、ポールが「おやすみ、ジョン」と返す。別なカットを組み合わせて構成されたこのシーン、不世出の奇跡のバンドをけん引した二人への敬意と愛情を、ピーター・ジャクソンが表しているかのようだ。

 ワイングラスを手に微笑むジョージの映像も。ジョンとジョージはもうこの世にいない。(ライター・小北清人)

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