体調に合わせた休憩

(AERA 2021年12月6日号より)
(AERA 2021年12月6日号より)

 一方、管理・専門・技術職が職業の中で最も低かったのはなぜなのか。鈴木助教は、職場での裁量権に注目する。

「管理・専門・技術職は仕事への要求度が高い一方、裁量権があることが多く、仕事の順番などを自分でコントロールでき職種性ストレスはそこまで大きくならないことがわかっています。それらが、死産リスクを低くした可能性が考えられます」

 ちなみに、職を持たない無職の母親の自然死産が最も低かったのは、自分の体調に合わせ休憩を取りやすいなどリスクの上昇を抑えられる環境にあるからだろうという。ただし、この研究の「職業」は、出産時の職業であり妊娠時の職業でないことには注意が必要だ。

 健康格差は「命の格差」ともいわれる。だがそれは、「自己責任」という風潮が根強い。健康は極めて個人的な事情を抱えているので、健康管理は自分の責任だという意見だ。しかし、と鈴木助教は強調する。

「変わるべきは、働く妊娠中の母親ではなく企業や社会です」

 妊娠中の母親はおなかの赤ちゃんを守るため、自ら置かれた環境で、できる限りの対策はしているはず。それでも職種によって死産リスクに差があった。そうであれば、命の格差を少しでも縮めるには、企業と社会が変わることが大切、と語る。

「企業は、作業の軽減だけでなく休憩や休暇の取りやすさを含め、柔軟性のある措置をとる必要があります。今は、女性は妊娠中も働き子どもを産んで育てていく社会になっています。社会全体で妊婦を守り、死産を少しでも減らす仕組みをつくることが重要です」

(編集部・野村昌二)

AERA 2021年12月6日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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