『テキサス・ムーン』クルアンビン&リオン・ブリッジズ(EP Review)
『テキサス・ムーン』クルアンビン&リオン・ブリッジズ(EP Review)
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 2020年2月にリリースした『テキサス・サン』から2年を経て完成した、クルアンビンとリオン・ブリッジズによる2作目のコラボレーションEP『テキサス・ムーン』。いうまでもなく前作の続編であり対となる作品で、カバー・アートも続く道の先に見えていたテキサスの景色が太陽(昼)から月(夜)に反転した絵がプリントされている。前作は主要チャートにはランクインしなかったが、米ビルボード・エマージング・アーティスト・チャート、アメリカーナ・フォーク・アルバム・チャートでそれぞれ1位を獲得し、マニアや音楽誌から高い評価を得た。活動の再開を待ち望んでいたファンも多いだろう。

 クルアンビンは、ローラ・リー(ベース)、マーク・スピア(ギター)、ドナルド・レイ“DJ”ジョンソン・ジュニア(ドラムス)の3人による米テキサス州ヒューストン出身の音楽トリオ。これまでにリリースしたスタジオ・アルバム『ユニバース・スマイルス・アポン・ユー』(2015年)、『コン・トード・エル・ムンド』(2018年)、『モルデカイ』(2020年)の3枚はいずれも傑作だが、現時点での最新作『モルデカイ』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で31位に初のランクインを果たし、UKアルバム・チャートでは7位にTOP10入りするなど、各国で最高位を更新し、商業的な成功もおさめている。

 リオン・ブリッジズも、米テキサス州出身の男性ソロ・シンガー。クルアンビンは、ファンクやレゲエ、ラテン~サイケ・ロックなど様々な音楽を操るジャンルをカテゴライズできないアーティストだが、リオン・ブリッジズはシンプルに“ソウル・シンガー”と呼べる統一性、説得力がある。その実力と人気もたしかで、Billboard 200ではデビュー作『カミング・ホーム』(2015年)が6位、2nd『グッド・シング』(2018年)が3位、3rd『ゴールド・ディガーズ・サウンド』(2021年)が17位にランクインし、【第58回グラミー賞】で<最優秀R&Bアルバム>、【第59回グラミー賞】で<最優秀短編ミュージック・ビデオ>にノミネートされ、【第61回グラミー賞】では<最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンス>を受賞するなど、輝かしい功績を残している。

 過去3作を振り返ると、それぞれのデビュー作からは両者交わりにくいような印象を受けるが、クルアンビンは『モルデカイ』でネオソウルやヒップホップの“黒い”要素を取り入れ、インストゥルメンタルではなくボーカル曲をメインとしていたし、リオン・ブリッジズの『ゴールド・ディガーズ・サウンド』も、基盤は崩さずも“ソウル・ミュージック”ではひとくくりにできない変化がみられた。クルアンビンは、2018年にツアーで意気投合した後、お互いの音楽に刺激され探求した結果が『モルデカイ』に反映したと話しているし、リオン・ブリッジズもおそらくそうだろう。

 前作『テキサス・サン』は“どっち寄り”ではなく、両者の個性、強みを違和感なく融合させたすばらしい作品だった。本作『テキサス・ムーン』も大きくは違はないが、リズムや音色、ボーカル・ワークからテーマに通じる“落ち着いた雰囲気”を作り上げている。両者の出身である米テキサスの古典的なサウンドもより色濃く出ていて、前作以上にコラボレーションの良さが際立った。

 その中でも、昨年12月に先行でリリースされた2曲目の「B Side」だけは、アルバムの“明るい時間”を彩る。70年代風のファンク・サウンドに宙を舞うような軽いコーラスを乗せたグルーヴは、同テキサス州のレジェンド、スライ・ストーンの漲る表情も垣間見えるほどのクオリティ。全体のトーンからすると若干浮くが、その起伏あってこそストーリーが完成する…といえよう。一方、もう一曲のシングル「Chocolate Hills」は、90年代のネオソウル系シンガー(ディアンジェロ~マックスウェルあたり?)を彷彿させる“夜向き”のアーバン・メロウで、リオンの気怠い歌い回し~マークの泣きのギターがその情景を耳で体感させる。

 オープニングの「Doris」は、ワウペダルを使用したうねるギター、ゆっくり時を刻むように鳴らすドラムの音が中毒性抜群の、エキゾチックなミディアム・ファンク。トラックはクルアンビンまんまといえなくもないが、マーヴィン・ゲイが乗り移ったようなリオンのファルセットこそ聴きどころで、まさにコラボレーションだからこその賜物。クルアンビンっぽいといえば、4曲目の「Father Father」も宗教的な内容が初期の作品と重なるが、リオンのボーカルが重いテーマを優しく諭しているようで、これもまた両者の特性がなければ完成しなかった作品だ。6分弱、無駄打ちせずひとつひとつ丁寧に演奏し歌うこの曲は、聴き終えた後催眠術にかかったようなリラックス感を味わえる。ラストの「Mariella」も、詞的にロマンスを綴った歌詞含めイージーリスニングのような穏やかさがあり、なんとも心地よい気分でアルバムを締め括る。

 とはいえ、わずか5曲ということもあり余韻に浸る間もなく……といったところだが、本作は『テキサス・サン』を組み合わせて完成するひとつのアルバム。異なるテーマを備えた両面なくして、本来の魅力にはたどり着かない。これは、クルアンビンがコンセプトとして掲げた「喜びなくして悲しみを見ることはできない、月なくして太陽は存在しない」というメッセージそのもの。クルアンビンとリオン・ブリッジズの音楽性も、対になる要素があるからこそ輝くわけだ。フル・アルバムの完成にも期待したい。

Text: 本家 一成

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