色とりどりの生花に囲まれた故人のベッドで、愛犬が眠っている(提供:鎌倉自宅葬儀社)
色とりどりの生花に囲まれた故人のベッドで、愛犬が眠っている(提供:鎌倉自宅葬儀社)

 葬儀コンシェルジュの馬場偲さんを訪ねたところ、「残念ながら実施にいたったケースはまだゼロなんです」という。それでも問い合わせは開始から1年間で40件ちかく。意外というか、ゆくゆくを考えた本人からの事前相談が多いという。

「断念されるのは、やはりご遺体のケア。ひとつひとつ説明しはじめると、じっくり考えてみます、となります」

 相談者が家族の場合は、本来の「自宅葬」を申し込まれるそうだ。

 じつは、記者の知人で、先のハンドブックが出版される以前だが、DIY葬を実践した人たちがいた。病院で亡くなった後、棺おけと火葬場の予約だけは葬儀社に頼み(火葬場によっては一般からの受け付けは断られることがある)、病院から自宅への搬送も自家用のバンに載せ、2階の寝室にも数人で抱えて運ぶなどした。

 故人が舞台演出家だったこともあり、遺族は通夜を「フェス」と呼び、平服で集った知人たちがワイワイガヤガヤと思い出話に花を咲かせる。その場に交じり落語みたいだと思ったが、故人の妻いわく唯一の失敗は「ぽかんと開いたままの口」。気づいたときには遅かったという。「でも笑っているみたいだったから、いいよね」

 印象に残っているのは、小さな子供たちによるクレヨンの寄せ書きだった。棺の四方がスキマなく、カラフルな絵や言葉で埋まっていた。

 その話をすると、馬場さんが「落書き、ああいいですよね」とニコニコする。馬場さんも過去にそういう葬儀に立ち会ったことがあるという。

■自分たちで考え見送った充足感

「鎌倉自宅葬儀社」の社員は馬場さん一人。社外のスタッフに協力を仰ぐことはあるが、ドライアイスの交換などは自身が日参する。欠かさないのは「故人のお人柄などを聞かせてください」とヒアリングするなど、遺族との対話を心掛けている。推奨するプランが一風変わっているのは、葬儀にかける日数だ。短くとも3日間。できれば7日間「自宅」で見送りをする。

 近年、通夜を省略した「一日葬」が一般化しつつあることを考えると、時流に逆行しているように思えるのだが、「コロナ以降、受注は3倍近く伸びています」という。

暮らしとモノ班 for promotion
インナーやTシャツ、普段使いのファッションアイテムが安い!Amazon スマイルSALEでまとめ買いしたいオススメ商品は?
次のページ