笑いまじりにぼやかれるのは、京阪神をエリアとする「あゆみセレモニー」の川原昭仁社長だ。1日1家族限定で「ふるさとの家」を思わす古民家ホールと、国内に数台のハイクラスの「霊柩車」を売りにしてきたが、コロナで目玉のリムジンの出番が激減したという。

 利用者の本音はどうなのか。昨年、父親を亡くされた図書館員のマユミさんに話を聞くことができた。

 父親のトモヒデさん(享年84)は長年、学習参考書の編集者をされていた。長女のマユミさんの下には弟が2人いる。

「父は1年半ほど入院していて、息をひきとった翌日にホールの部屋で葬儀社の人に湯かんをしてもらいました。葬儀は親戚には知らせず、家族だけで見送りました」

 実家に仏壇はあり、父の生家は日蓮宗だったが、トモヒデさん自身は無宗教者で「死んだら川に流してくれたらいい」と語っていたこともあり、祭壇も位牌もなし。棺の上には、母が持参した小さなスナップ写真を飾った。

 シンプルながらも喪の時間の中でよかったのは、いつも父の傍らにいた愛犬オルが葬儀場に入れたことだという。

「弟が、葬儀社の人に、犬にお別れさせたいんですけどと尋ねたら、いいですよと言ってもらえて。オルが父の顔をペロペロとなめているのを見て、みんな泣いてしまいました」

 耳を傾けながら、記者が、父のときにもそうしたらよかったなぁと思ったのが遺影写真だ。

 額装の大きな遺影でなく小さな額にしたのは、「母は、ふだんから居間に家族の写真を飾っていて。大きな写真は好みじゃなかったんでしょう。実家に行くと母は父のその写真を見ているんですよね」

 リムジンの霊柩車もそうだが、出棺の際に家族が胸に抱く大きな遺影は、会葬者に向けたセレモニーの意味合いが大きいのかもしれない。コロナ禍は葬儀の形も変えつつあるようだ。「お坊さん」も「位牌」もなしでもいいかと葬儀の簡略化が進むとともに、それぞれの価値観にあった「自由」な弔いが加速度的に広まりだした。

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