菅首相は前向きに同意したのだが、「現在、新型コロナ問題で手いっぱいなので、それが一段落したら取り組むことにする」と言って、そのまま辞任してしまった。
この構想の発端は、日本的経営の限界が見えてきたからだ。
たとえば1980年代、日本経済はジャパン・アズ・ナンバーワンと称されていて、企業の時価総額ランキングでは、世界のトップ10社の中に日本企業が7社も入っていた。ところが現在では、トップ50社の中にトヨタが36位と1社入っているだけである。
現在の日本的経営は年功序列、終身雇用制で、役員も社長も基本的に社員から出る。会社員の目標は企業内で地位の高い役職に就くことになり、どうしても上役に気に入られるために、思い切った正論などが言えないことになる。
東芝がわかりやすい例だ。数年前まで7年間も粉飾決算を続けていて、これが東芝が劣化した要因なのだが、中堅以上の社員ならば誰でも粉飾とわかっていたはずなのに、誰も指摘しなかった。6、7人の中堅以上の社員に「なぜ言わなかったのか」と問うと、「言えば左遷される。それが怖くて言えなかった」と誰もが答えた。
これでは企業が劣化するはずである。年功序列と終身雇用の見直し、ひいては新卒採用や学生の就職活動、仕事に対する教育のあり方を改革するなど、問題は山積みなのである。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2022年10月14・21日合併号