国葬を前に安倍晋三元首相の功罪が議論されている。評価が分かれる政治家だが、佐伯氏はこの「保守の精神」の衰弱こそが元首相の負の遺産ではなかったかと問う。保守長期政権下で保守が衰弱したとは逆説的だが、元首相の攻撃的なスタイルは保守思想すらゲームの駒に変えてしまったということだろう。だからこそネトウヨに支持された。そしてある時期からは、リベラルもまた返す刀で、目先の論破や短期的な動員ばかりを目的にするようになってしまったのである。
安倍元首相の銃撃からもうすぐ2カ月。戦後史の曲がり角になる大事件かと思われたが、いまや国葬の是非を題材にまた同じゲームが繰り返されているようにも見える。警備の不備や山上徹也容疑者の動機はいつのまにか話題に上らなくなってしまった。
ゲームには記憶がない。いまは皆健忘症にかかっている。本当の意味で「アベ政治」を抜け出すためには、元首相が残したそんなゲーム化の呪縛そのものから抜け出さねばならないのだと思う。
◎東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数
※AERA 2022年9月12日号