<ライブレポート>BLUE ENCOUNT 6年ぶり、ベース辻村渡米前ラストの日本武道館で見せたバンドの進化と未来
<ライブレポート>BLUE ENCOUNT 6年ぶり、ベース辻村渡米前ラストの日本武道館で見せたバンドの進化と未来

 昨年10月から続いてきたツアー【BLUE ENCOUNT TOUR 2022-2023 ~knockin' on the new door~】のファイナルであり、バンドにとっては2016年以来の“リベンジ”となる2度目の武道館公演であり、そして何より、この春からアメリカ・ニューヨークに拠点を移す辻村勇太(Ba.)にとっては渡米前最後のワンマンライブであり……BLUE ENCOUNTが6年ぶりに立った東京・日本武道館でのライブは、さまざまな意味が重なる、文字通りの節目の一日となった。しかし、ライブが終わり、メンバーが去った後のステージを眺めていて思ったのは、「これはブルエンの物語“だけ”を伝えるライブではなかったんだな」ということ。結成から18年、辻村が加入して現在のラインナップになってから15年、その歩みを証明するようなセットリストの先で、彼らはその物語を自分たちだけのものに終わらせず、武道館に集まった多くのファン、バンドを支え続けてきたスタッフ、みんなの物語に転換してみせた。そうしたライブになったということ自体が、ここまで長い時間をかけて築き上げてきたバンドとしての進化、そしてこれから先のブルエンの未来を明るく照らし出すようだった。

 開演時間、オープニングムービーに続いて、舞台のすぐ下に待機する田邊俊一、江口雄也、高村佳秀、そして辻村の姿がスクリーンに映し出される。円陣を組み「全力でやろう」と声を掛け合うと、いよいよライブのスタートだ。SEに乗って登場した4人に大きな拍手と歓声が送られる。そしてライブは「アンコール」から始まった。意外な1曲目のチョイスだが、今にして思えば、〈エンドロールはまだ早い/アンコールは鳴っている〉と歌うこの曲から始めるというのも彼らからの明確なメッセージだったのだろう。そこから一気にアクセルを踏み込んで「Survivor」に突入すると、武道館の客席が一気に湧く。ゴリゴリと鳴り響く轟音と田邊の歌声には一抹の緊張感のようなものが漂っているが、4人とも表情はとてもリラックスして楽しげだ。さらに江口のギターから、観客のハンズクラップもバンドを後押しする「ポラリス」へ。感傷を振り切るように、熱のこもったパフォーマンスが繰り広げられていく。

 「DAY×DAY」「ロストジンクス」、そして「HEART」と懐かしい曲を挟み、リリースされたばかりのミニアルバム『Journey through the new door』に収録された新曲「vendetta」では辻村のベースと田邊のラップによるバトルも展開。ステージの中央で向き合ったふたりに熱い歓声が飛ぶ。ソールドアウトの客席を見渡して「めっちゃ楽しい!」と田邊。前回の武道館から6年、そのあいだにメンバーそれぞれに起きた変化を語る4人の口ぶりは、ライブが始まった瞬間の緊張感とは打って変わって肩の力が抜けている。田邊はなんとつい先日、念願だった自動車の運転免許を取ったそうだ。そんなMCを経てここからライブはますます自然体で、だからこそ伸びやかなものになっていった。「コンパス」を経て「ルーキールーキー」のブライトなメロディがそのリラックスした気分をますます高めていく。田邊と辻村が戯れ合いながら演奏しているのを見ていると、別れとか離ればなれとか、そういうのを彼ら自身はとっくに超越しているんだなあと思う。

 彼らのライブを牽引し続けてきた「NEVER ENDING STORY」で煽りまくる辻村のコールに応じてオーディエンスが美しい一体感を生み出すと、スクリーンにはバンドの歴史を振り返るような映像が流れ始める。続いていく線路、街並み、田邊・江口・高村の出会いの場となった本の高専、リハーサルスタジオにライブハウス……辻村が作ったという音楽を乗せたそんな映像を見てちょっとセンチメンタルな気分になったところで始まったのは「city」だった。前回の武道館で田邊自身のライフストーリーを赤裸々に綴ったこの曲が鳴り響いたときのことを思い出す。当時彼がこの曲に刻み込んだものは、砂を噛むようにしてたどり着いたこの場所を何が何でも守る、もっともっと大きくしていくという決意だったと思う。その決意は6年という時間をかけてより確かなものになってこの場所に帰ってきた。その証拠に、「city」を境目にしてライブはバンドの新章を告げるような後半へと突入。「Z.E.R.O.」と「虹」では生のストリングス隊を交えて音源とは比べ物にならないくらいスケールの大きな風景を生み出してみせた。

 ここで改めて辻村のアメリカ行きを観客に伝える田邉。拍手を浴びる中、辻村は前日に同じ場所で開催されたブルエンとTHE ORAL CIGARETTES、04 Limited Sazabysという盟友3組の対バンイベント【ONAKAMA 2023】に触れ、「やっぱり音楽好きだなって、すげえ感じました」と語る。「だからこそ俺は、いろんな人に見てもらって、いろんな価値観を知ったうえで、またBLUE ENCOUNTに昇華できる音楽を作りたい。それプラス、自分が好きな人と音を交わし合うという憧れもある。どっちも頑張りたいという決意も込めて、アメリカに行ってかましてくるので! しっかり頑張ってくるね」という言葉にはさらに大きな拍手。だが、最初に書いた通り、この日のライブはそれ「だけ」を見せるものでなかった。田邉もギターをかき鳴らしながら「今日やりたいのは辻村の『壮行会』とかじゃなくて。これからも変わらないものもたくさんあるし、何よりも主役はあなただと思います」と客席に語りかける。そして「今から歌う歌、これをあなたと一緒にこの場所でやりたかった」というと「もっと光を」のサビを弾き語り始めた。すぐに客席からの声がその歌を覆い隠していく。みんなの歌声の力を得て、高村の叩くエイトビートも、江口のギターソロも、辻村のベースラインも嬉しそうに躍動している。これがブルエンだ。時代やバンドの形が変わろうとも揺るぎない彼らの芯がそこにははっきりと見えた。

 ここからはまさにクライマックス。「#YOLO」に「VS」、そしてブルエンが新たに生み出した代表曲「バッドパラドックス」。1曲ごとにボルテージは高まっていく。その「バッドパラドックス」の〈僕らは出会えたんだ 信じて〉という歌詞のところで辻村は客席を指差し、続いて自分を指差した。そのストーリーはまだまだ続いていくよ、と訴えかけるように。いよいよライブの終わりが近づいてくる。田邉は「何年経っても全然完璧な人間になれないんだよ。でも完璧じゃなくてよかった。完璧じゃなかったから、いろんな人たちに出会えて、あなたに出会えたんだと思います。完璧じゃなくてもいいんだよ。生きてさえいれば、俺がこの3人と出会えたみたいに、この4人であなたに出会えたみたいに、大事なものに出会えるんだって思うよ」。そう、物語は決して終わらないし、ここから「次」へと続いていく。「DOOR」のあたたかくて力強い響きで武道館を包み込み、「青」で生まれ変わったようにフレッシュな姿を見せつける。文字通り未来への希望に胸がすくようなラストだった。

 オーディエンスによる「もっと光を」の合唱がバンドを再びステージに呼び込む(これもコロナ前は当たり前だった光景だ)。そしてスタッフ全員をステージに集めての記念撮影を終えると、本編で大活躍だったストリングス隊を呼び込み「それでも、君は走り続ける」を披露。そして「今年、新しいお知らせがめっちゃある」と大暴れすることを予告すると、田邉は不敵に「マジ期待していてください」と叫んだ。未来を見据えている4人の顔には充実感が浮かんでいる。そして「だいじょうぶ」を経て本当に最後の曲として鳴らされたのはブルエンにとって決定的な転機となった1曲「HANDS」だった。この曲の説得力がこの数年でどれほど増したかを見せつけ、ブルエン2度目の武道館ワンマンは終わりを告げたのだった。

Text by 小川智宏
Photo by ハマノカズシ、ヤマダマサヒロ

◎公演情報
【BLUE ENCOUNT TOUR 2022-2023 ~knockin' on the new door~ THE FINAL】
2023年2月11日(土) 東京・日本武道館