──今回の映像化でも、原作に忠実な部分と、アレンジされた部分がいくつかありました。

三木:原作との関係でいうと、時代設定を変えたというのがあります。原作では90年代のバブル前後の舞台設定を、映画では00年代のリーマンショック前後の時代に変えさせていただきました。この作品こそ、今、まさに社会に出ていくような若い人に見てほしい物語だなと思ったからです。SNS時代の最近も、分断や対立という言葉を聞きますよね。この作品は、自分と違う背景を持った人や、違う意見を持った人とどうやってつき合っていくのかというテーマもあると思っていて。

池井戸:今回の映画のメインキャストは他の作品に比べ若いので、いつもより若い世代が見てくれるのではと思っています。僕の本の読者は社会人が多く、若い世代は少ない印象があるので、この映画がきっかけとなって、僕の小説に興味を持ったり読んでくれたりするとうれしいですね。

三木:「アキラとあきら」は、池井戸さんの映像作品によくある勧善懲悪のカタルシスとは違う、別のカタルシスが感じられる作品。そのカタルシスがとても気持ちがよくて、自分のモチベーションがものすごく上がったところではあるんです。池井戸さんの作品には、勧善懲悪だけじゃないおもしろさもあるんだということを、提示できたんじゃないかなと。

──三木監督は、今の新入社員世代に見てほしいとおっしゃっていましたが、おふたりはどんな新入社員時代を送っていましたか?

三木:大学で自主映画とかを撮っていたんですが、とにかく何か、映像に関わる仕事をしたいと思ったんですね。たまたまレコード会社の映像制作部門で新卒を募集していて、98年に入社しました。今思うとラッキーだったのは、当時は人手が足りなくて、新人の僕が任されちゃうんですよ(笑)。ほぼ手探りでミュージックビデオを監督できたことが、いい経験になっています。

池井戸:僕は80年代後半に銀行に入りまして、大阪の支店に行くことになり、新入社員がたいてい配属される「資金係」になったんですね。当時はまだ給料も現金という時代。お客さんが預けた現金などがここに集まってきて、僕たちがひたすら数えるんですよ。ちなみに一番苦労したのが神社のお賽銭(笑)。手を真っ黒にして、お札や硬貨を数え続けました。そうなるともう、お金をお金とは思えなくなってくる。元々作家志望だったので、すぐに、自分は銀行業務に向いてない、道を誤った……と気付いたんですが、結局、7年くらいは勤めました。

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