後に竹下氏に聞いたのだが、このとき円相場は1ドル=240円台で、竹下氏は200円くらいまでは円高になっても仕方がない、と判断したようだ。だが、円は何と150円台となり、円高不況となった。これが、プラザ合意である。
ところが、米国はそれでは満足せず、日本が米国に不当な輸出を続けるのは内需拡大ができていないからだ、と恫喝。内需主導型の経済成長、輸出入や産業構造の抜本的転換などを提言した前川リポートを無理やり実行させた。
そのために日本は大バブルとなり、バブルがはじけて90年代に入って大不況となったのである。
さらに米国は、不公正だと特定した国に対して、関税引き上げなどの報復措置を取る強硬な条項「スーパー301条」を連発して、日本経済のぶち壊しにかかった。
私は、中曽根首相に会って、なぜ日本は米国の無理難題に応じなければならないのか、NOと言えないのか、と問うた。すると中曽根首相は、残念ながらそれができない、なぜなら米国に安全保障を委ねているからだ、と答えた。
中曽根首相は主体的な安全保障体制を構築しようとしたのだが、多くの反対にあい、できなかった。
今、日本の経営者たちは失敗を恐れて守りの経営を続け、政治家たちも批判を恐れて構造改革という発想を失っている。まさに危機なのである。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2022年8月19・26日合併号