崔江以子さん(48)
11月に、ネット上で自身を中傷する差別投稿を続けた発信者を提訴した。「匿名に隠れて投稿しても、特定され責任が問われることを発信する意味もあります」(photo 写真部・張溢文)
崔江以子さん(48) 11月に、ネット上で自身を中傷する差別投稿を続けた発信者を提訴した。「匿名に隠れて投稿しても、特定され責任が問われることを発信する意味もあります」(photo 写真部・張溢文)

「差別のない社会を願って発信した私は、インターネット上で本当にたくさんの誹謗中傷や差別を受けています」

 川崎市に住む、在日コリアン3世の崔江以子(チェカンイヂャ)さん(48)は話す。東京・新大久保などで激化したヘイトデモは、15年に崔さんら在日コリアンが暮らす地区にも押し寄せた。生まれ親しんだ町をヘイトスピーチから守るため、崔さんは対策に動き出す。実名と顔を出しメディアで訴え、参考人として国会でも話した。だが、声を上げた崔さんがレイシストの標的になった。

 勤務先に「祖国に帰れ」などと書かれた手紙が届き、ゴキブリの死骸が入った封書が届いた。ツイッター上の崔さんへの攻撃は止まらず、崔さんはツイッターを止めアカウントを削除した。21年3月には、崔さん宛ての脅迫郵便物が勤務先に届いた。それ以降、外出時に防刃ベストを着用しているという。

「人を人とも思わない差別。出ていけ、帰れ、死ね、いなくなれと言われて、普通ではいられません」(崔さん)

■禁止と制裁規定がない

 言葉の暴力は、矛先を向けられた側の尊厳を削り取っていく。

 12月8日、フォトジャーナリストの安田菜津紀さん(34)がネット上での出自に対するヘイトスピーチに対し、投稿した西日本在住の男女2人を相手取り、各195万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。

安田菜津紀さんのツイートに「リプライ(返信)」で送りつけられた匿名の差別投稿。「密入国では? 犯罪ですよね?」などと書かれている(NPO法人Dialogue for People提供)
安田菜津紀さんのツイートに「リプライ(返信)」で送りつけられた匿名の差別投稿。「密入国では? 犯罪ですよね?」などと書かれている(NPO法人Dialogue for People提供)

 訴状などによると、安田さんは20年12月、「父が在日コリアンだと知ったのは死後だった」などとツイッターに投稿したところ、2人から「密入国では?」「在日特権」など差別的な返信をされた。安田さんは、2人の投稿はヘイトスピーチ解消法が定める国外出身者や、その子孫に対する「差別的言動」に当たると訴える。提訴後の会見で安田さんは、こう語った。

「ヘイトスピーチは(相手に)恐怖心を抱かせたり、沈黙を強いたり、尊厳を傷つけます」

 社会的に責任ある会社も、差別をあおる文章をまき散らした。化粧品大手の「ディーエイチシー(DHC)」は20年11月以来、公式サイトに会長名で、蔑視表現をちりばめ「コリアン系は日本の中枢を牛耳っている」などと主張し続けてきた。DHCの不買運動も広がり、21年5月末までに差別的な文章は削除された。しかしなぜ、会長はこのような文章を掲載したのか。社会的責任をどう考えているのか。本誌の取材にDHCは、「コメントは差し控えさせていただきます」(広報部)と回答した。

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