AERA 2022年1月17日号より
AERA 2022年1月17日号より

 一方、もう1種類の経口薬は米ファイザーの「パクスロビド」だ。米国や英国ではすでに緊急使用許可などが出ており、国内でも近く、特例承認申請が出される見通しだ。政府は同社と200万回分の供給を受けることで合意している。

 臨床試験では、発症から5日以内に服用を始め、1日2回5日間の服用で、入院や死亡のリスクを約88%下げる効果があった。

 対象は、米国では高齢だったり持病があったりして重症化リスクの高い体重40キロ以上の12歳以上、英国では18歳以上。モルヌピラビル同様、軽症か中等症・の感染者が対象だ。

■妊婦も「使える」薬

 パクスロビドは、ウイルスが増殖する際に、ウイルスの構成成分となるたんぱく質の製造に欠かせない酵素を標的にしている。遺伝情報に変異を起こす作用はないため、英米では服用のメリットが大きければ妊婦も使える、としている。

 ただし、土井教授はパクスロビドについてこう注意喚起する。

「普段から持病などで薬を飲んでいる人の中には、その薬とパクスロビドとの間で薬物相互作用が起きる可能性があるため、服用にあたって注意が必要になる人がいます」

 薬は、体内で吸収された後、成分が代謝・分解され、尿などとして体外に排出される。

 パクスロビドは、1回につき2種類の薬を服用する。そのうちの1種類は、薬剤の成分があまり早く体外に排出されないよう、体内で代謝されたり体外に排出されたりする速度を抑える働きがある。

「特に肝臓で薬剤成分を代謝する酵素のうち、『シトクロムP450 3A』と呼ばれる酵素の働きを抑えるので、同じ酵素で代謝される、コレステロールを下げるスタチンや、一部の抗凝固薬、免疫抑制剤などを飲んでいる人では、いつもの薬の効果が強く出過ぎる可能性があります。こういった人への投薬は注意が必要です」(土井教授)

 臨床試験の結果だけをみると、重症化を防ぐ効果がモルヌピラビルの30%に対し、パクスロビドは約90%と差が大きい。このため、フランス政府のようにモルヌピラビルの購入をやめた国もある。しかし、土井教授はこう話す。

次のページ