パオロ・ジョルダーノ氏 (c)Daniel Mordzinski
パオロ・ジョルダーノ氏 (c)Daniel Mordzinski

『コロナの時代の僕ら』が世界的なベストセラーになった、イタリアの作家、パオロ・ジョルダーノ氏。同書で、コロナが人類にもたらしたさまざまな変化について「僕は忘れたくない」と綴っていたジョルダーノ氏は、コロナ禍から2年を迎えようとするいま、どんなことを考えているのだろうか?2018年に書かれた長編小説『天に焦がれて』の邦訳版がこのほど刊行されたのにあわせ、同氏にメールでインタビューした。

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―――『コロナの時代の僕ら』の執筆時と現在で、心境の変化は?

『コロナの時代の僕ら』を書いていた2020年3月初めは、憎悪と不安でいっぱいでした。その時は今わかっているような情報がまったくなかったからです。イタリアは中国以外で初めて、コロナウイルスによって深刻な打撃を受けた国です。そのため非常に強い孤独感と孤立感を持っていました。私にとっては、世界の他の国々も同じ運命になるのは時間の問題であることは明白でしたが、当時、多くの人々はそう考えていませんでした。

 こうしたことが、コロナウイルスが蔓延し始めた早い段階で私がエッセイを書くことを決め、かつなるべく早く書こうと考えた理由のひとつです。書くことは現実に直接的な影響を与え、違いを生み出せます。良い情報は――私達が学んだことの一つですが――大きな違いを生むのです。ただ、あのエッセイは情報を伝えることだけではなく、人々の恐怖や孤独を和らげることを目的として書きました。

 今日、私達の出口はとても近づいており、未来はまだ不透明ですが、状況は2020年3月の比ではありません。あまりにも多くの受け入れられない死を目の当たりにしましたが、まだ我々は生きています。ワクチンもあります。社会もまだ崩壊していません。『コロナの時代の僕ら』を書いていた頃は、これらのことは当たり前とは考えられないことでした。私はまだ非常に警戒していますし、誰もがそうあるべきですが、コロナ禍でも、無理にでも精一杯生きるようにしています。一つ一つの問題にも向き合っています。不可能だと感じていた数ヶ月を経て、私はまた小説を書き始めました(読むことも)。ただ、同時に、何も忘れないようにしています。特に亡くなった方々がいるということを忘れたくないのです。

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