死別者の会で気づいたことだが、参加者は誰一人として意見や強いアドバイス、励ましを口にしなかった。話す人の思いやつらさを、ただうなずきながら聞いている。「傾聴」が大切だということを、自身の経験で学んでいたのかもしれない。
こうした遺族心理は、配偶者やパートナーとの死別経験がない人には「?」の部分が多いだろう。だからこそ、遺族外来には意義がある。理解されづらい状態の自分を素直に出し、心身のケアを受ける場所が必要なのだ。
外来では記念日反応が起きることや、友人たちの言葉で傷ついてしまう可能性を患者に教えている。「事前に知っておくことで、心の準備ができます。『その時』のダメージをやわらげようという考え方です」(石田氏)
「~したほうがいい」「~すべきだ」などのアドバイスはしない。話に耳を傾け、患者が自分で考えるようになるのを待つ。
「状態が行きつ戻りつを繰り返す患者さんが多いですが、配偶者やパートナーを亡くされた方は3年ほどでよくなる方が多く、遺族外来を『卒業』していきます」(石田氏)
配偶者やパートナーとの死別を意識して生きている人はそうそういないだろう。大西氏も「1年に一度で良いから考えてほしいと思いますが、そう啓発をしても、砂漠に水をまくような現実があります」と認める。
ただ、別れの時はいつか来る。どちらかが旅立ち、どちらかは残される。
大西氏と石田氏は
「もし、つらさに押しつぶされそうになったとしても、焦らなくていいんです」と口をそろえる。
「私は患者さんに『1年目は、とにかく生きていればいいですよ』と伝えています。15年の外来経験で、遺族には、最初はつらくても少しずつ適応して成長する力が備わっていることを学びました。深い傷を負った後、より人に優しくなれたり、心が成長した自分と出会うことができるのだと感じています」(大西氏)
死別後の自分は、それ以前とは“違う自分”になってしまうかもしれない。ただ、遺族外来のように頼っていい場所が実はある。一人で苦しむ必要がないことだけは、知ってほしいと思う。(AERAdot.編集部・國府田英之)