米軍基地が集中する沖縄県。嘉手納基地では住宅地のそばに滑走路があり、軍用機が頭上を飛び交う

 06年の日米の米軍再編合意では、日本の主権が及ばない米国領土であるグアムの基地建設費を日本側が負担することが盛り込まれた。11年版の防衛白書によると、「在沖海兵隊のグアム移転事業」として、グアム移転に関する経費の総額約102億7千万ドルのうち、日本の負担額が約60億9千万ドルとされている。12年4月に日米が合意した米軍再編見直しの共同文書では、グアム移転の規模は縮小するにもかかわらず、日本側の負担を増額した。

「思いやり予算」の通称は、1978年の衆議院内閣委員会で金丸信防衛庁長官(当時)が「日米関係が不可欠である以上、円高ドル安という状況の中で、米国から要求されるのではなくて、信頼性を高めるということであれば、思いやりというものがあってもいいじゃないか」と答弁したのが由来だ。

 上智大学の宮城大蔵教授(日本外交)は当時の背景をこう解説する。

「米国は財政危機とドルの下落に苦しむ一方、日本製品は競争力を増し、国際収支は大幅な黒字でした。『安保ただ乗り』という米国の不満を和らげるために思いやり予算が始まったわけですが、軍事面で制約のある日本に対する米国の不満をカネで和らげるという構図は、91年の湾岸戦争での130億ドルの拠出などにも通じるものだといえます」

 しかし、「安保ただ乗り」の構図は冷戦後、ガイドライン法や安保法制によって、日本がより能動的な姿勢をとる方向へと大きく変化してきた。また日本経済が低迷し、かつてのように大盤振る舞いできる財政状況ではない。

 そんななかで打ち出された「同盟強靱化予算」という名称。宮城教授は「政治的な意図が濃厚です。本来は、より価値中立的な名称が好ましい」と言う。「同盟強化のためなのだから当然支出すべきもので、削減を議論するのは同盟を弱体化させる」といった具合に、この予算を聖域化する動きを触発しかねない、と考えるからだ。

「第2次安倍晋三政権下の安保法制をめぐっては、政府は『平和安全法制』という呼称を打ち出して反発を和らげようとしましたが、メディアなどでは定着しませんでした。今後、この予算を政府側の意向通り『同盟強靱化予算』と呼ぶのか、メディアの側の判断も問われます」(宮城教授)

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