
■議論に集中する環境
政府関係者は2プラス2の共同発表文について「専守防衛の見直しはもちろん、敵基地攻撃能力の保有も、認めるかどうかの政治決断はこれから。今回は国家安保戦略の改定に向け、今できることを中心にまとめた」と説明する。同時に「国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する」という文言を入れたことで、専守防衛の見直しも含め、政治が幅広く決断できる余地を残したという。
政府内では、台湾など地域情勢について、発表文にある「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促した」という記述よりも更に突っ込んだ表現が必要ではないか、という意見もあった。
だが、「盾と矛」の見直しについての議論に集中する環境をつくるため、あえて地域情勢の表現を抑えた内容にしたという。
政府は国家安保戦略の改定に向け、有識者からの意見聴取を1月26日から始めた。折木元統幕長や、月刊誌「中央公論」21年4月号で、反撃力の導入を唱えた国際協力機構(JICA)の北岡伸一理事長らが参加する。別の政府関係者は「日本の安全を守るために、何が一番良い選択なのかという議論が行われてほしい」と語る。
■外交力の強化も重要
ただ、国会で、敵基地攻撃能力の保有や専守防衛の見直しについて、どこまで議論が深まるかは見通せない。日本の国会は従来、文民統制などを理由に、自衛隊の制服組が答弁に立つことを避けてきた。日本を取り巻く安全保障の状況や防衛力の具体的な効果と限界などについて突っ込んだやり取りは少なく、憲法第9条に違反するかどうかといった論争が中心を占めてきた。夏には参院選もある。岸田政権が、支持率を大幅に下げる危険もある敵基地攻撃能力や専守防衛についての議論を避ける可能性もある。
また、元自衛隊幹部の一人は「抑止力を高める場合、相手が誤解しないように、同時に外交力も強化して、十分日本の意図を伝えてもらわなければ困る」と語る。
だが、昨年11月、林芳正外相の訪中構想が持ち上がると、すぐに自民党外交部会などから反対の声が上がった。党ベテラン議員は「尖閣諸島や台湾の問題で、世論の中国に対する視線が厳しくなっている。有権者の受けが良い強硬論に走る議員も多くなる」と語る。今年は日中国交正常化50周年にあたるが、首脳や外相の往来はもちろん、政治交流については一切白紙の状態が続いている。
議論できるのは今しかない。敵基地攻撃能力の保有も、専守防衛の見直しも、その是非はともかく、議論もしないで政府任せにしておいてよいわけがない。(朝日新聞記者・牧野愛博)
※AERA 2022年2月7日号