フリーの演技を終えてあいさつする羽生
フリーの演技を終えてあいさつする羽生
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 北京五輪フィギュアスケート男子フリーでショートプログラム(SP)8位だった羽生結弦が、前人未到の大技4回転半ジャンプに挑んだ。転倒して回転不足だったが、国際スケート連盟公認大会で初めて認定された。AERA2021年2月21日号では、羽生結弦が4回転半に懸けた思いを取材した。

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 羽生にとって、「SPで順位を落とし、逆境のなか迎えるフリー」というのは初めてではない。むしろ若き羽生は、その逆境を利用して無限の飛躍を果たしてきた。2012年のフランス・ニースでの世界選手権も、17年のフィンランド・ヘルシンキでの世界選手権も、羽生は諦めていなかった。

 その夕方、提出された予定構成表に、勝利への誓いが記されていた。4回転半だけでなく「3回転半+3回転ループ」という初の技を組み入れた、新たな構成になっていたのだ。

■フリーは攻めの構成

 全日本選手権でのフリーは、国内参考記録ではあるが211.05点。新たな技で4点、4回転半を着氷すれば約8点伸ばせる。220点台が出れば、頂点は現実的。そんな攻めの構成だった。

 迎えた9日の練習で、羽生は軽やかに「3回転半+3回転ループ」を決める。曲かけでの4回転半はかなり惜しいところまで回り、本番一発成功さえ予感させた。

 しかし運命のいたずらは、再び起こった。練習開始から26分。全力で回転を締めて、4回転半ちかく回って降りると、右足をひねって転倒。その後は右足の感触を何度も確認し、練習を終えた。

フリーに向けて集中する羽生(photo Getty Images)
フリーに向けて集中する羽生(photo Getty Images)

 必死の治療を試みたことは、聞くまでもないだろう。本番朝の練習では、4回転半や「3回転半+3回転ループ」を回避。4回転を着氷した瞬間に思わず悲鳴を漏らし、わずか19分でリンクから上がった。

「絶対アクセル(4回転半)を降りる。絶対回りきるんだ」

 そう自身に言い聞かせ、4時間を過ごした。

 6分間練習に現れた羽生に、朝のような不安な表情はなかった。最後の2分間、かつてない回転速度の4回転半を跳ぶ。1本目はバランスを崩して転倒し、2本目は勢い余って転倒した。その瞬間は近づいていた。

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