
短期集中連載「起業は巡る」。第3シーズンに登場するのは、新たな技術で日本の改革を目指す若者たち。第1回はAIで電力の需要と供給を予測する「デジタルグリッド」社長の豊田祐介氏だ。AERA 2022年2月21日号の記事の1回目。
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「曇ったら使えない、風がやんだら動かない。そんな不安定なものに電力供給は任せられない」
太陽光や風力など再生可能エネルギーに懐疑的な人々がよく口にする言葉である。巨大な蓄電池ができるまで、それは一面の真実であり、そんな設備ができるにはまだ時間がかかる。
その常識を、AI(人工知能)を駆使した革新的なシステムで覆そうとしている会社がある。デジタルグリッド。社長の豊田祐介の経歴はピカピカだ。
2012年東京大学大学院工学系研究科修了(技術経営戦略学専攻)。ゴールドマン・サックス証券(GS)に入り、戦略投資開発部でメガソーラーの開発や投資業務などに従事した。16年投資ファンドのインテグラルに移り、18年デジタルグリッドに。19年7月から現職だ。
豊田との最初のインタビューはオンラインだった。その経歴から、ピンストライプのスーツが似合うギラついた青年。あるいは銀縁メガネで目から鼻に抜ける感じの天才肌を予想していたが、画面に現れた本人を見て、いささか拍子抜けした。
記憶が飛んだ10カ月
黒っぽいカーディガンを羽織ったその青年はどこにでもいそうな物腰の柔らかい若者だった。雰囲気は20年に活動を停止した人気グループ「嵐」の櫻井翔。おじいちゃん、おばあちゃんにも好かれそうなタイプだ。
直接会うために訪れた東京駅近くのオフィスは、「丸の内マンハッタン計画」から取り残されたような古いビルの7階にあった。そのあたりも六本木や渋谷の超高層ビルに集まるネット系スタートアップとは一味違う。
「実は社長になってから10カ月の記憶があまりないんです」
取材が佳境に入ったころ、豊田は壮絶な体験を話し始めた。
米シリコンバレーの著名投資家、ベン・ホロウィッツが書いた『ハード・シングス』は、スタートアップの経営者が直面する困難を赤裸々に描いた。その中で、ホロウィッツは自分が起業家だったころ、投資家のマーク・アンドリーセンと交わした会話を紹介している。