これは奇妙な話だった。ロシア軍の派遣はあくまで東部の自称国家を守るという建前だが、プーチン大統領は同時にウクライナ自体の存在を否定し、ウクライナ全体が脅威だとしているのだ。東部は単なる建前で、ウクライナ全体を狙っていることを示していると言える。
◆プーチン流「奇妙な論理」のすり替え
そしてその3日後の2月24日、プーチン大統領は開戦を命じた。同日の演説ではこう語った。
「東部の人々を守るため、東部で軍の特殊作戦を開始する」
「ウクライナの非軍事化を目指す。だが占領計画はない」
これも奇妙な論理だ。東部の軍事作戦としながら、“ウクライナ軍“の解体を目指すとしている。そして実際、ロシア軍はウクライナ全土での攻撃を開始したのだ。
ロシア軍は北部、東部、南部の3方向から侵攻したが、そのうち北部ではベラルーシから南下し、翌25日には首都キエフへの攻撃も始めた。
同日、プーチン政権は停戦を呼びかける声明も出しているが、ペスコフ大統領報道官はこう述べている。
「停戦はウクライナの中立化と非軍事化が前提条件だ」
非軍事化というのは、降伏せよということを意味する。また、中立化とは言っているが、それは建前であり、当然、ウクライナの指導部の退陣とロシア派の傀儡政権の擁立。そして、その要請によるロシア軍の正式な治安維持任務化、いわば“官軍”化を狙っていることは明らかだ。
こうしたプーチン大統領の言動をみると、彼の狙いは最初からウクライナ全体を支配することだったことがわかる。その手順と作戦は最初から計画されていたのだろう。そして、その過程で一貫して「自分は悪くない。相手が悪いのだ」と無理やり強弁し続けているのである。
(軍事ジャーナリスト・黒井文太郎)