プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の調査によると、83%の雇用主が自宅勤務への移行は成功だったと回答している。また、企業の文化を保つために必要な出社の日数は、「週に3日」が必要と答えた雇用主が最も多かった。こうしたデータからもハイブリッド勤務は可能だといえる。
第二に、コロナ禍で仕事の負担が増え、疲労やストレスで「バーンアウト(燃え尽き)」した人たちが辞めているともいわれる。やはりケルカーさんのようなエッセンシャルワーカーに多く、人手不足→バーンアウトという悪循環は深刻だ。
第三に、米政府による手厚い新型コロナ緊急支援策で、米世帯の貯蓄が増えたのも退職につながっている。
ロックダウンが終わったころも、政府による現金支給があるため、求職をしない人が多くいた。手元にまだ現金があれば、就職先を見直し、より良い職業に就くチャンスを探ることもできるからだ。
1人辞めると道連れに
そして最後に、ノーベル賞経済学者ポール・クルーグマン氏は、米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、1人が退職すると他の人も後を追う「道連れ退職」の可能性を指摘した。
低所得者層が多いエッセンシャルワーカーは長年、自分の待遇がいかに悪いかきちんと理解していなかった。ところがコロナ禍で、劣悪な労働環境に、感染に対する恐怖との闘いが加わった。そこで、自分の仕事はいかにひどいものかと気づく。1人が気がついて同僚に話し退職すると、他の従業員も目から鱗(うろこ)が落ちたように追随するという行動学的な現象だ。
また、コロナ禍で女性の離職率は男性よりも増えている。
米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーの20年の調査によると、10歳以下の子供を持つ従業員で、離職を考えているのは男性13%に対し、女性は23%と大きく男性を上回った。コロナ禍で学校がリモート授業になり、子供を預ける場所がなくなったなど、女性が家で子供を見ることを強いられていることが背景にある。
「大退職時代」は、感染リスクを負う低所得層のエッセンシャルワーカー、そして女性と、米社会の弱者が主に牽引(けんいん)「しているといっても過言ではない。
クルーグマン氏は、こう指摘している。
「少なくとも、パンデミックによる混乱は、(仕事や働き方に対する)考えを見直す大きなきっかけになったと言える」
(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))
※AERA 2022年3月21日号