だが、コロナ禍が落ち着いたとみるや、新しい仕事を探す人が増えて、21年9月には3.0%にまで急上昇した。

 そんな「大退職時代」は今年も続く見通しだ。

 米ソフトウェア企業のクアルトリクスがパートタイムを含む米従業員1千人以上を対象に行った調査によると、管理職の53%と社員の44%が年内に転職活動を予定していると回答した。実に半数が、コロナ危機の爪痕が残る今、退職し、次の一歩を踏み出そうとしている。

「これが人生で3度目の大学卒業への挑戦だ。でも、今度は必ず卒業する。コロナによるショックで、自分に、そしてガールフレンドに一番大切なことは健康とそれを守るための仕事だと気がついたんだ」

 と語るのは、ニューヨークに住むミーヒア・ケルカーさん(33)。昨年夏まで、バーレストランのマネジャーとして、店の切り盛りを誇りにしていた。

感染リスクを恐れて

 しかし、レストランは最も感染リスクが高い業種の一つで、帰宅時間も不規則だ。休日はゴロゴロし、薬物でハイになって終わってしまう。

 彼は引き留めるオーナーを説得して、仕事を辞めた。現在はオンラインで低所得者層を助ける社会福祉士のコースを学ぶ。危機に左右されやすい飲食業とは異なり、自らの健康を守る専門知識も身につけ、貧しい人々に寄り添いたいという。

 前述の離職率が高い職種の多くは、いわゆる「エッセンシャルワーカー」の人たちに支えられている仕事だ。ケルカーさんが言うように、感染リスクが高いことと無縁ではない。

 クロッツ准教授は、こうした人々の「価値観の変化」が、大退職時代を引き起こした主な原因だという。

 第一に、完全リモートワークや、自宅勤務と出社を組み合わせた「ハイブリッド勤務」を求める人が増えている。パンデミックで始まった自宅勤務で、仕事の生産性がより高くなり、私生活も充実したと感じている人が多いためだ。

 金融やメディア、広告業が集中するニューヨークで連日の出社を奨励する企業は、サービス業を除けば、もはや少数派である。全員が職場復帰する日は未定で、経営者がどうやって社員を安全に出社させるのか決めかねている企業も少なくない。

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