けれども戦争はつねに悲惨である。確かに不当な侵略は武力で跳ね返すほかないが、戦争自体は輝かしいものにはなりえない。ゼレンスキーはそれを痛いほどに感じているからこそ、日本では抑制された口調で平和への貢献や復興への協力のみ言及したのではないか。かつて首都を焼け野原にされ、原爆まで落とされた国として、そのメッセージをしっかり受け止める必要がある。

 残念ながら、その点で違和感をもったのが演説後行われた山東昭子参議院議長の挨拶(あいさつ)だ。「命をも顧みず祖国のために戦っているすがた」に「感動」という言葉は、現実の犠牲に苦しむ国に向ける言葉として適切だったのか。戦争に高揚するのは映画のなかだけにしたい。

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

AERA 2022年4月4日号

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