東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 ゼレンスキー・ウクライナ大統領が3月23日に国会演説を行った。

 実施には是非の議論があった。オンラインの国会演説には前例がなく、交戦国の片方のみ演説を許すことは公平性に欠けるとの批判もあったからだ。当日も一部議員が退席したほか、国会前で反対の声を上げる市民もいたという。

 ゼレンスキーはすでに複数国で演説を行っている。英国ではチャーチル元首相の演説を引用、米国では真珠湾攻撃に触れるなどして両国の愛国心に訴えた。他方でドイツやイスラエルでは親露政策を批判する厳しい姿勢を見せ、日本でも内容が注目されていた。原爆や北方領土への言及があるのではとの予測もあった。

 結果としてみれば演説はたいへん穏当なものだった。チェルノブイリから始まり日本文化への共感に至る内容で、要求も経済制裁の強化のみ。拍子抜けとの声も聞かれるが、筆者としてはむしろ共感した。

 開戦から1カ月、ウクライナは予想以上に善戦している。特にSNSを駆使した情報戦で大きな成果を上げており、国際世論は反ロシア一色となった。当然の事態だがそこには落とし穴もある。ゼレンスキーは元俳優で演説がうまい。おまけにウクライナは明白な被害者でだれもが感情移入しやすい。その結果いま世界中で好戦的な議論が力を強めている。日本も例外ではない。

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