菅義偉(すが・よしひで)/1948年、秋田県生まれ。横浜市議を経て、96年に初当選。第2次安倍政権で官房長官を長く務め、歴代1位の在職日数を記録。2020年、首相就任。コロナ禍での東京五輪開催、ワクチン接種体制の構築などに奔走した
菅義偉(すが・よしひで)/1948年、秋田県生まれ。横浜市議を経て、96年に初当選。第2次安倍政権で官房長官を長く務め、歴代1位の在職日数を記録。2020年、首相就任。コロナ禍での東京五輪開催、ワクチン接種体制の構築などに奔走した

 首相にズバッと切り込んできたジャーナリスト、田原総一朗氏の「宰相の『通信簿』」は最終回、菅義偉氏をとり上げる。最長政権を支えた番頭役が首相として短命に終わった訳とは。(一部敬称略)

【田原氏による菅氏の採点表はこちら】

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田原総一朗氏
田原総一朗氏

 2018年9月の自民党総裁選で安倍晋三首相が3選し、彼と会った。

「田原さん、“ポスト安倍”は誰がいいと思いますか?」。やりとりの中でこんなふうに尋ねられ、「本気ですか」と聞き返した。安倍のほうは、本気も本気、といった様子だった。

 そこで僕は、「菅(義偉)さんがいい」と言った。

 なぜか。世襲議員じゃなくて、いわゆるエリートでもない。働きながら大学を出た苦労人なので、他人の足を引っ張ったり、変な野心を持ったりすることはないだろうと。何よりも「あなたは官房長官を続けさせ、信用している」と指摘した。

 安倍も、菅を有力な首相後継者と考えていた。2人の関係はいろいろ取りざたされているけど、安倍には「菅首相」はずっと念頭にあったはずだ。

 実際、菅内閣ができた。ところが大問題がいくつかあり、わずか1年余りの短命政権に終わった。

 一つは、日本学術会議の会員候補6人の任命を拒否した問題。これについて僕は菅に同情している。学術会議があの候補者名簿を出した時は安倍内閣だった。それを引き継いだ菅が、安倍の決めたことをひっくり返せるわけがない。

 二つ目は、新型コロナウイルスでワクチン接種が遅れたこと。欧米より数カ月も遅れ、だめな首相だと思われてしまった。

 ただ、今になってみると、菅首相は新型コロナの対応をよくやったよね、なんて評価されてもいる。

 そして三つ目の失敗は、東京五輪。21年春の世論調査では「やるべきでない」との意見が多かった。でも、そもそも五輪の1年延期を言ったのは安倍首相だったわけで、それを継いだ菅はやらないわけにいかなかった。

 だからこそ彼は、政府の新型コロナ対策の分科会の“決断”をひそかに期待していたはずだ。けれども、分科会は「中止」ではなく「無観客開催」を提言した。つまり菅としては「やらない」という選択はなかったんだね。

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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