岡野さんは、こう指摘する。

「この時点で、徴集兵がウクライナ侵攻に加わっていることはもう隠し切れないと判断したのだと思います。ただ、ロシア国防省のコナシェンコフ報道官は『彼らはすべてロシアの領土に戻った』と発言していますが、これは言葉どおりには受け取れません」

■強制契約でウクライナへ

 3月29日、ロシアのショイグ国防相は徴集兵を戦地に送ることはない、と改めて強調した。しかし、兵士の母親の会の疑念は晴れない。AKSMのホームページの冒頭には、こうある。

<プーチン大統領は、ウクライナでの特殊作戦への徴集兵の参加を否定しました。しかし、不正な手段で徴集兵を作戦に送り込もうとする指揮官もいる。(中略)徴集兵に対する契約締結の強要があった場合には、直ちに対処する必要があります>

 これは、どういうことなのか?

「徴集兵であっても所定の書類にサインすれば契約兵になります。こうなればどこへでも派兵できる。兵士の母親の会が問題視しているのは、徴集兵が強制的に契約兵の書類にサインさせられ、ウクライナに送られるケースです。捕虜になった兵士のなかにはそう証言している人もいます」

 ウクライナ侵攻以来、ロシア政府は報道機関に対する締め付けを強めている。

「ある程度の政権批判もしていた独立系の新聞は発行停止に追い込まれました。それ以外の報道はもうプロパガンダに成り下がっている感じで、政府の主張から外れたことは報道できない。例年であれば、春の徴兵について、ウクライナの戦争の影響を踏まえた批判的な視点の記事が多少は出ると思うんですが、今年はまったくありません」

■母親の会だけはアンタッチャブル

 不思議なのは、兵士の母親の会がロシア軍についてのネガティブな情報を流し続けているにもかかわらず、それに対する締め付けが感じられないことだ。

「政権が力ずくで彼女たちの活動を止めたり、サイトを閉鎖したりすることはできると思います。でも、それをやってしまえば、そのニュースがSNSで広がり、反プーチン世論の引き金になりかねない。徴兵年齢の人たちはちょうどSNS世代ですから」

 ロシアでの世論調査によると、いま、ウクライナ侵攻を支持するロシア人は8割を超える。ただ、そのうち「強く支持する」と答えた人をみると、高齢層の64%に対し、若者は29%にすぎない。

「母親から反対され、徴兵に応じない若者が増えれば、戦争継続の妨げとなるでしょう。だからあえてプーチン政権はそこに触れない、というか、触れられない、ということです」

 わが子の無事を願う母親たちの強い気持ちは世界共通だろう。それを逆なでするような行動は、あのプーチン大統領でさえできないようだ。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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