
横軸は、社会のあり方についての考え方の違いを表す。右側は移民などに排他的。移民は自分たちの雇用や文化を脅かすと主張する候補が位置する。仲良し社会を掲げるが、仲間は「フランス人」だけ。よそ者がいない空想上の古きよきフランスへの回帰に人々を誘う。
左側の候補は、移民や難民とも連帯する包摂的な仲良し社会を目指す。批判の矛先は、グローバル経済を享受し、タックスヘイブンで富をため込みながら、ダボス会議などでご託宣をたれるエリートたちや特権階級に向けられる。
横軸で見れば、確かにルペン氏は左派のメランション氏の正反対にいる。だが縦軸ではそれほど差はない。むしろマクロン氏との違いの方がずっと大きい。この2軸だけでも、候補者の位置関係は複雑になる。さらに環境などの軸を加えて立体的な座標にすると、もっと錯綜(さくそう)する。
複数の対立軸で主張がもつれあうなか、第1回投票でルペン氏に迫る高い支持を得たメランション氏の支持者たちは、決選でだれに投票したのだろうか。
メランション氏は「ルペン氏に投票してはならない」と支持者に呼びかけた。それでもルペン氏に投票したのは17%に上った。左右の両端にいるはずの2人だが、少なくない支持者が境界を踏み越えた。これに対し、左派出身で中道と言われるマクロン氏に投票したのは42%。残りの41%は棄権や白票を投じた。
こうした白票や無効票は、決選の投票総数の8.66%を占め、2017年に次ぐ高さだった。棄権は1366万人(全有権者の28%)にのぼった。
全有権者を母数にすると、マクロン氏の支持率は38.5%、ルペン氏は27.3%。それに対し、棄権と白票・無効票は計34.2%だった。ルペン氏支持のかなりの部分がマクロン氏への批判票だと考えれば、大統領選挙で圧勝したのは“政治不信”ともいえる。(ジャーナリスト・大野博人)
※AERA 2022年5月16日号より抜粋