■一家で3基購入も
シェルターは米国製で、キューバ危機でも使われたものだという。広さは約2.6坪、深さ約5メートル。折りたたみ式の2段ベッド2台と、床下収納も備え付けられている。放射性物質などを除去できる空気ろ過機や手回し発電機もあり、ここで2週間は過ごせると説明する。
価格は設置費を含めて約1500万円からと、気軽に手を出せる値段ではない。それでも、一家で3基購入したケースもあるという。
「お孫さんの分も、ということでした。安全性を買っているので、価格の問題ではないんです」
自治体もシェルターに熱視線を送っている。
茨城県結城市では、今年からふるさと納税の返礼品として核シェルターを採用。製造するのは、地元企業の「直エンジニアリング」だ。
幅約2メートル、奥行き約4メートル、高さ約2メートルの地上設置型で、ふるさと納税では2090万円の寄付が必要になる。
だが、通常購入であれば本体価格570万円からとシェルターのなかではリーズナブルだ。同社専務の古谷野喜光さんはこう説明する。
「東日本大震災のとき、お金のある人は別の場所にいて、避難所にいなかった、という声も聞きました。ならば、低価格で買えるものを作れないかと思ったんです」
構想から7年経った昨年12月、ようやくシェルターが完成した。
「ミサイルが落ちると想定される場所は限られているので、多くの場合は爆心地から舞い上がる放射性降下物が問題になります。シェルターには放射性物質などを除去するイスラエル製のフィルターを搭載し、屋根と壁には鉛の板も入れています」
■低いシェルター普及率
ウクライナ侵攻以降、同社への問い合わせも急増している。だが、シェルターそのものが普及していない日本では、購入したことを後ろめたく思う人もいるという。
「地下シェルターではなく一部が地上に出ているので、有事の際に人が殺到することや、自分だけ助かればいいのかと思われてしまうのが怖いという方も多いです。もっとシェルターが普及すれば認識が変わるかもしれません」
NPO法人「日本核シェルター協会」の調査によると、14年時点の核シェルター普及率は、スイス、イスラエルが100%、ノルウェーが98%、アメリカが82%に対して、日本はわずか0.02%だった。堂々とシェルターを使うには、まだ時間がかかりそうだ。(編集部・福井しほ)
※AERA 2022年5月16日号より抜粋