行き過ぎた「勝利至上主義」の結果、しばしば起こる暴力問題。子どもを守るためには、指導者の教育も必要となってくる。AERA 2022年5月30日号の記事を紹介する。
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過熱した「指導」は、しばしば罵声や暴言、時に暴力となる。2012年12月に大阪市立桜宮高校でバスケットボール部の男子生徒が顧問から暴力を受け、自殺した。これを契機として翌13年、日本体育協会(現・日本スポーツ協会)など5団体は「暴力行為根絶宣言」を採択し、以降はスポーツ指導における暴力行為は少なくなったとされる。
それでも、日本スポーツ協会の「暴力行為等相談窓口」には暴力・暴言・パワハラなどで多い年には200件を超える相談が寄せられている。
サッカーの場合、チームで活躍した選手が市や県のトレーニングセンター(トレセン)に呼ばれ、さらにJリーグクラブのジュニアユースにスカウトされたり、将来の年代別日本代表候補にも通ずるナショナルトレセンに選ばれたりするルートが確立されているため、より過熱しやすい。神奈川県で長く少年サッカーチームの指導にあたり、県サッカー協会のU-12(12歳以下)委員も務めた早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘(しょうへい)研究員の桑原昌之さんはこう話す。
「神奈川にはU-12登録チームが約500あり、競争状態です。チームにとってトレセンに選手を送れるのは売りになるし、トップ層になるほど保護者もヒートアップする。全国大会などの活躍がトレセンやその先につながるので、目先の勝利ばかり目指してしまいがちです」
一昔前と比べると罵声は減ったというが、チームの型や戦術に子どもたちを当てはめようとするケースは今も珍しくない。
「勝利至上主義のチームだと、『おまえ、使えないな』などという言葉が飛び交う。そうすると子どもはコーチの顔色ばかりうかがい、スポーツを楽しめません。サッカーにせよほかの競技にせよ、本来は一生楽しめるのに、『もういやだ』とやめてしまう子が少なくないんです」