現在上演中の舞台「スルメが丘は花の匂い」で初主演を務めている吉岡里帆さん。童話でおなじみのキャラクターたちが登場するファンタジー作品に挑戦する。作・演出を手掛ける岩崎う大(かもめんたる)とテーマや見どころを語り合った。AERA 2022年8月1日号の記事を紹介する。

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――世は空前のソフトボールブーム。嫌々ながらもブームには抗えず、ボールを追っていた縁緑(吉岡里帆)がふと迷い込んでしまったのは、童話のキャラクターたちが暮らす街「スルメが丘」。緑は異世界の住人たちと触れ合いながら、「自分の物語を生きる」ことに目覚めていく。

 本作が舞台初主演となる吉岡は、岩崎う大の不思議な世界観をどのように受け止めたのだろうか。

吉岡:しっかり稽古してちゃんと演じきれたら、デトックス効果がある作品になりそうだなって思いました。私が今までやってきた作品は、いかに自分に負荷をかけて登場人物を理解できるか、みたいな闘いをするものが多かったんです。でもこの舞台に関しては、お客さんを気持ちよくさせる、楽しんでもらうっていうのが根底にある。「やっぱり、う大さんは素敵な人だな」って改めて感じました。毒っ気もあるけど、優しさも常にある方です。

岩崎:うれしいですね~。僕、芸人からはよく「人でなし」と言われるんですけど(笑)、本当は愛こそが全てっていう人間なんです。

フィクションが持つ力

――岸田國士戯曲賞に2年連続ノミネートされるなど、演劇界でいま最も勢いのある作り手と評される岩崎。本作で挑むのは「物語の世界の物語」だ。フィクションを題材にすることへの思いをこう語る。

岩崎:コントも含めれば今まで本当にいっぱいお話を作ってきました。当たり前ですけど、お話を作るって人間しかやってないこと。今回の舞台では、自分が作ってきたお話への感謝と同時に、フィクションというものに今一度向き合ってみようと。コロナ禍は、エンタメに関わる多くの人間にとって「自分の仕事にはどんな意味がある?」と自問自答する時間だったと思うんです。そんなきっかけもあって、フィクションの持つ力を、フィクションの力を借りながら表現してみたいと思いました。実はフィクションは、ものすごく自分たちの実生活に密着しているし、現実を逆に突きつけてくるものでもあるんです。

 吉岡さん演じる緑は、作品の中でおかしなキャラクターたちと出会います。まるで不思議の国のアリスみたいに。これまで吉岡さんが演じてきた役どころって、ちょっと不気味なところがあって、そこに面白さがあると思うんですけど、今回の舞台に関してはそうではない。今までの吉岡さんがボケ側なら、今回はツッコミ側です。

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