イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

「一番やらかしたなー、みたいなのってなんですか?」「そんなにないですけど、遅刻ですかねぇ」「大変でしょう?(身を乗り出して)」「いやぁ、寄席だと後の予定だった演者が先に上がったり、上手い具合に融通利かせてくれるんで、さして問題なく進んでいきますね。あとでお席亭に謝りに行きますけど『今度から気をつけてねー』ってかんじですね」……再び見合う二人。

 沈黙を破り「まるでウケないこともあります?」と聞き手。「ありますね」「(嬉しそうに)そういう時はその晩は眠れなかったり?」「お客さんも好みがありますからね。この方々とは『意見』が合わないと思って忘れます。引きずると碌なことないですから(笑)」……終始無言。これくらいの手ごたえのない『ミス』を披露していると、「好きな食べ物は?」とか子どものような質問に移行し、そのうちにインタビューされる機会がだんだんと減ってくる。芸人としては上手に『ミス』を語れないという、大きな『ミス』である。気をつけたい。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!

※週刊朝日 2022年6月17日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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