ロシア・プーチン大統領を知るために、「週刊朝日」本誌で今号から『まんがでわかる ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン』(2017年、イースト・プレス)の転載を始めます。作品の監修者で拓殖大学大学院の名越健郎特任教授のインタビューと作者トーエ・シンメ氏のメッセージをお届けします。
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──漫画の監修者から読者に向けてメッセージをお願いします。
いま、プーチン大統領は世界で最も危険な人物と目されています。核大国が暴走したら、容易には止められないということを世界は思い知らされた。まさか戦争が起きるとは、国際政治学者は誰も予想できなかった。今日の状況に至った経緯を知るには、彼の生い立ちや、思考の形成過程を徹底的に解剖する必要があります。トーエ・シンメさんが描いた漫画は、さまざまな資料を調べて多角的なプーチン論に努めており、読者に多くの素材を提供すると思います。
──プーチン氏の政治家としての特徴は?
プーチン氏は戦略家ではなく、戦術的な指導者です。盤上で戦略を立てるチェスを好まず、柔道やアイスホッケーなど相手の出方に応じてとっさの判断で動くスポーツを好んできました。2000年の大統領就任当初は、リベラル派の政治家も閣僚に取り込むなどプラグマティスト(実用主義者)でした。欧米の指導者とも信頼関係を結び、02年にはG8サミットにも参加しました。
──いつごろから、現在のような国粋主義的な指導者に変貌したのですか。
諸説ありますが、私は04年だと見ています。ウクライナでオレンジ革命が起き、大統領選で親米派が勝利し、親ロ派は敗れます。NATO(北大西洋条約機構)にバルト3国やルーマニアなどが加盟しますが、プーチン氏はNATOの東方拡大に米国が介在していると見て、反米志向を強めていきます。08年にブッシュ米大統領が、ウクライナとジョージアのNATO入りを提案した際も強く反発しました。戦術型政治家だから、欧米の出方を見て場当たり的に反応していったのです。