近頃では、私のようなオカマですら、おいそれと口にするのは躊躇する「おなべ」という呼称。男性側(オカマ側)と女性側(おなべ側)では、それぞれの自意識も世代によって異なる上、「オカマ・おなべ」という言葉が辿ってきた歴史や扱われ方も大きく違います。だけどこの度、坂口杏里さんが旦那様を「おなべ」と呼んだ裏には、「おなべだろうと男として好き」「おなべだから好き」「男でも女でもない感じが好き」、さらには「おなべだろうと女が好き」という、いかようにも読み取れる様々な意思が横たわっています。まさにジェンダーフリーや多様性のわかりづらい問題を、キャッチーかつ斬新な表現でなされた発信です。良い意味で雑。良い意味で無神経。
さらには「そこに私は偏見ありません!」とのことですが、これは大概まだ何かしらの偏見を抱いていることの裏返しでもあります。そこもまたリアルでむしろ信頼できるものです。あとは実践あるのみ。気づいたらただの男女・夫婦になっている日が来るかもしれませんし、どうかお幸せにね。プライド月間。坂口杏里効果に期待です。
ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する
※週刊朝日 2022年6月24日号