吉田茂や池田、佐藤ら戦争を知る世代は、安全保障を主体的に考えること自体が危険だと考えていた。防衛力の強化が避けられなくなったときに軍部が突出し、それを抑えようとする政治家は、五・一五事件、二・二六事件などで殺された。結局、負けが見えている太平洋戦争に突入せざるを得なかった。だから、戦争を知る世代の政治家は、米国が押し付けた憲法によって自らを守ることが安全だと考えたのだ、というのである。
ベトナム戦争時には、米国は“自衛隊よ、ベトナムに出兵して戦え”と日本に求めた。米国の要求に否とは言えず、佐藤首相が相談すると、宮沢氏は「あなたの国が押し付けた憲法が難しすぎて、行くに行けないじゃないか」と返答するように言い、その後も憲法を逆手にとって、米国の戦争に巻き込まれずにやってきたのだという。
だがそれは、パックス・アメリカーナが機能していた時代の話で、今や米国は世界の警察であることを半ば放棄している。これは日本には大問題で、安全保障を主体的に考えなければならない時期に来ていることは間違いない。親安倍路線で異論は封殺して進むのか、反安倍路線で時代に合った対話による安全保障を導き出すのか。日本は岐路に立たされている。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2022年7月8日号