五月、美味しくなってきているのが春の芽生えです! 小さな小さな芽が育ち、味わえる新芽となっているのです。新茶、木の芽、そして新緑の中に頭をだすタケノコも大地をほっこり持ち上げています。どれもが独特な味わいで、苦味だったりえぐみを持っており、私たちに初夏の味覚を与えてくれます。この時季にしか得られない貴重な食材ですが、調理に手間がかかりそう、と尻込みしてしまう方もいらっしゃるかもしれません。思い切ってやってみれば思いのほか簡単です。
さぁ、五月の味わい「新緑」を楽しんでみましょう!
「新茶」初夏の一番手を楽しみたい!
五月になって先ず迎えるのが「八十八夜」です。立春から数えて88日目で今年は5月2日になります。この日は「八十八夜の別れ霜」と言って、昔からこの日を過ぎれば気候が安定するため、農家の人々には種まきを始める目安となっていました。
「茶摘」の歌詞「あれに見えるは茶摘みじゃないか」を口ずさんだ方は、新茶摘みの活気ある情景を思い浮かべるのではないでしょうか。
≪摘みてなほ茶畝のまろさ損なはず≫ 山仲英子
新茶の摘み始めは早いところでは4月の上旬から始まるそうですが、通常は八十八夜をはさんで2~3週間が最盛期とのこと。「新茶」はその年の一番早いころの新芽を摘んで作られたお茶を言います。季節に先んじることから「はしり茶」とも言われ、正に「新緑」の香りを尊ぶ心があらわれています。
≪走り茶や水やはらかく使ひたり≫ 伊藤敬子
茶の湯に親しむようになった安土桃山時代以降、お茶は広まり品質に厳しい目が向けられるようになっていきました。一般的な茶摘みは新芽とその下三葉をつけて摘むそうですが、高級茶では下二葉までなどと決まりがあるようです。摘む時期によって一番良質とされる一番茶、二番茶、三番茶、最後の晩茶と品質の段階が決められています。
晩茶は番茶とも書き、秋から冬に摘むお茶を言うそうです。玉露や煎茶のような香りは楽しめませんが、熱い湯でしっかりと味を出したり、ほうじ茶にして香りを楽しんだりと、日常使いの気軽なお茶として、忙しい日常にホッと一息をもたらしてくれています。
新緑の中にひょっこりと現れる「筍・竹の子」
たけのこは「竹の子」。親は竹。なぜそのように言われるようになったのでしょう? 旧暦春の終わり頃、竹の葉が枯れたように黄色く色を変えていきます。この現象を竹が親として子に栄養を与えるようすととらえてのこと。だから筍は「竹の子」というわけです。筍はぐんぐん成長してあっという間に親竹と同じ高さになるところから、「筍の親優り」という言葉もできました。
味わいたいのが、生まれたての「筍・竹の子」です。重なり合った皮に包まれていますから、見た目の大きさに比べて食べられる部分は思いのほか小さいこともあり、時としてガッカリしてしまうこともありますが、大切に包まれていた柔らかな繊維は、初夏の味そのものと言えましょう。
≪筍を茹でてやさしき時間かな≫ 後藤立夫
≪竹の子を食べて充実してゐたり≫ 角川春樹
≪からっぽの筍飯の釜洗ふ≫ 白石順子
どの句からも旬を味わう喜びと満ちたりた思いを感じませんか。「筍・竹の子」は掘り出してからの時間が勝負。新鮮さが美味しさにつながります。時間が経つにつれアクが強くなり、渋みや苦味が増して美味しさが半減してしまいます。「筍・竹の子」を買う時は売り場のまわりをチェックしてください。アクを抜くための米ぬかが必ず小袋に入って置いてあります。キチンとアクを抜いたあとは、どのように食べても美味しくいただけます。定番の筍ご飯や若竹煮のほかにも、自由なアレンジで楽しみ、味わいたいですね。
「木の芽」は独特の香りが命です
「木の芽」とは春になって木々に萌え出た新しい芽全般をさしますが、この時季に「木の芽」と言えば、特に香りの高い山椒の新芽をさします。
葉を両の掌でパンと合わせ叩いて香りを立たせ、吸い物の上にのせたり煮物に添えたりするのが一番簡単な楽しみ方と言えましょう。
すり鉢ですり潰し白味噌に味醂や砂糖を加え、酒や出汁を足してゆるめてできる木の芽味噌はぜひ作りましょう。お好みの食材と和えれば「木の芽和え」のでき上り。山椒の爽やかな香りの中に味噌のうま味と食材の味がからみあい、一瞬にして五月の味となります。
≪青き串木の芽田楽貫けり≫ 小暮剛平
≪田楽に塗りつけてある緑かな≫ 長谷川櫂
定番の豆腐も季節の味わいへ、フレッシュな緑の味と香りを手軽に楽しむようすが伝わります。すり潰すことでより木の芽の香りが立ちますから、合わせる食材はお好みで色々と試してみるのも楽しみです。
山椒は木のすべてに使い道があり、実はとても役に立つ木なんです。春に出た新芽は初夏の味覚に、花と実と皮はそれぞれの辛みを生かして香辛料に、そして木は堅く頑丈なところからすりこ木として活躍しています。お庭やベランダに一本あったらいいな、そんな風に思えませんか。
参考:
小学館『日本国語大辞典』
角川学芸出版『角川俳句大歳時記』