新入社員のころに先輩たちがバリバリと仕事をこなす姿を見て、10年後の自分に大きな期待や憧れを抱いたことはないでしょうか。しかし、いざ自分が10年目になってみると、知識やスキルを積んできたからこそ新たな壁にぶつかりモヤモヤ。まるで10代のころに経験した思春期のよう......。
「社会人10年目前後の時期は『キャリア思春期』だ」と例えるのは、『社会人10年目の壁を乗り越える仕事のコツ 〈 若手でもベテランでもない中堅社員の教科書 〉』の著者・河野英太郎さん。同書は、東京大学卒業後、大手広告会社や外資コンサルティングファームなどさまざまな組織文化に身を置き、数千人の人材育成をおこなってきた河野さんが、「キャリア思春期」をうまく乗り切るためのコツや工夫を記した一冊です。
「社会人10年目」といっても、人それぞれ置かれた立場や悩みの種類は違うもの。けれど、ぶつかる壁は共通していると河野さんは言います。同書は1章「スキルの壁」、2章「キャリアの壁」、3章「職場環境の壁」、4章「マネジメント・リーダーの壁」、5章「時代の変化の壁」に分けて、全部で50の悩みに対して河野さんがメッセージを送っています。
たとえば、社会人10年目前後によく起きやすいのが「もう10年働いたのに、誇れる仕事が何もない」という焦りです。河野さんはこの問題に対し、以下のように回答。
「たった10年で人に誇れるような仕事をできる人は、ほんの一握り。20年にひとつですら立派なものだ。なんなら、一生にひとつだって十分人に誇れるものなのだ」(同書より)
これまで河野さんは、老舗大企業のトップや政治家、起業家、プロのアスリートなど、そうそうたる人々と話してきましたが、最初の10年で何かを成し遂げた人は稀だったそうです。そして、その人たちに成功の秘訣を尋ねると一様に返ってきたのが、「目の前の仕事を、着実にやり遂げること」という言葉。
何かを成し遂げたいのであれば、仕事に対して投げやりになったり転職の誘惑に流されたりせずに、「まずは目の前の仕事を着実にやり遂げること」こそが大事だと河野さんは説きます。
また、「自分より優秀な後輩に嫉妬心を持ってしまう」というのも、この時期ならではの悩みではないでしょうか。河野さんは「まず前提として、先輩は後輩より優秀でなくてはいけない、という発想はやめにしましょう」とアドバイスします。
自分より優秀な後輩は「いて当たり前」であり、そうした後輩は嫉妬の対象ではなく「観察の対象」として参考にすべきだと河野さん。このように発想や解釈の転換をすることで、気負いやプレッシャーを感じないようにするコツも教えてくれます。
ほかにも「なかなか収入が上がらない」「今の会社にとどまるべき? 外に出るべき?」「会社の経営方針に疑問を持ち始めた」「一生懸命やっているのに評価されない。なぜあの人だけ?」など、社会人10年目がぶつかりやすいリアルな悩みがズラリと並びます。ひとつでもピンと来た方は一読してみてはいかがでしょうか。「悩んでいるのは自分だけではない」と励まされるとともに、10年目の壁を乗り越えるヒントが何か見つかるかもしれません。
[文・鷺ノ宮やよい]