東京パラリンピックは8月28日、トライアスロンがあり、男子PTS4クラスに宇田秀生(34)が出場。AERA2019年11月18日号のインタビューを紹介する(肩書、年齢は当時)。
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遠泳後に海から上がると自転車をこぎ、長距離を走る。この「最も過酷なスポーツ」とも評されるトライアスロンを、宇田秀生は利き腕を失ってから始めた。
結婚して5日後。仕事中に機械に巻き込まれ、目の前を自分の右腕が飛んでいった。一命を取り留めたが、できないことばかり目につく日々。病室で妻と何ができるのかを考えていたときに気づいた。
「パラリンピック、出られるんちゃう?」
事故の3カ月後に水泳、1年後にはトライアスロンを始めた。ランは片腕でもバランスを崩さず走れたが、ロード用自転車は前傾姿勢で目線も低く、ましてや片腕。最初は怖かった。左のレバーだけで前後のブレーキが利く自転車を特別に作ってもらって試合に出場すると、2戦目のアジア選手権で優勝。その2年後には世界ランキング1位にまで上り詰めた。
強みは、プロを目指し16年間打ち込んだサッカーで鍛えた体と心だ。自慢の脚力に加え、片腕一本でもフォームが安定するのはサッカーで培った強い体幹のおかげ。レースで苦しいときには、高校時代の練習を思い出し、「それと比べたら、なんてことない」と耐え、さらに一つ上の順位を狙う。
自転車とラン、トランジションは世界トップレベル。課題はスイムだ。やはり片腕だけだと推進力を生み出すのは難しいのかと問われた宇田は、「僕の技術力とパワーが足りてないだけ」。失ったものを嘆くのではなく、何ができるかを考え、前に進む。“パラリンピックの父”ルートヴィヒ・グットマン博士の言葉を体現するかのように。
(編集部・深澤友紀)
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■トライアスロン
車いす、義足、視覚障害などの選手が参加し、距離は五輪種目の半分のスイム750メートル、バイク20キロ、ラン5キロで競う。スイムからバイク、バイクからランへ移る際の「トランジション」もタイムに含まれ、各選手の工夫も見どころ。一般のトライアスロン以上に選手の各種目の得意不得意が表れ、目まぐるしく順位が入れ替わる。リオ大会から正式競技となった。
※AERA2019年11月18日号に掲載