東京パラリンピックは8月25日、自転車のトラック種目が始まり、女子3千メートル個人追い抜き(C3)に杉浦佳子(50)が出場する。AERA2019年9月9号でのインタビューを紹介する(肩書や年齢は当時)。
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ロードレースの終盤。急激なペースアップでアタックをかけ、集団から抜け出す。後続に追いつかれれば何度でも。先頭で強い空気抵抗を受けながらも走り続けられるスタミナを武器に、世界の頂点に立つのが、杉浦佳子だ。
「156センチの私では、ゴール手前のスプリント勝負では長身の海外選手にはかなわない。持久力をつけ、クレージーな走りで、追う方を疲れさせる作戦です」
2018年はロードレースの世界選手権で2連覇し、W杯も完全制覇した。今年は社内のジムでさらに持久力を鍛え、高地合宿で心肺機能も高めている。
薬剤師の仕事の傍ら趣味で楽しんでいたトライアスロンで自転車の実力を認められ、実業団チームから誘われた。その最初のレースで落車。脳挫傷や粉砕骨折の大けがで、記憶や注意など認知機能に障害が出る高次脳機能障害や右半身のまひが残った。競技中の姿からは障害があるようには見えないが、自転車を降りると杖が手放せない。
右足がうまく動かないため、スタートでは左足でペダルを回しつつ、右足に全体重を乗せてこぎ出す。高次脳機能障害の影響でコーナーを曲がる際の角度やスピード感、ブレーキのタイミングなどが分からなくなるが、前日に何十回も試走し、記憶して補うなど入念な準備でレースに臨む。コーチや監督らと試行錯誤しながら勝利の方程式を作り上げてきた。
「周りの人のおかげで、今の私がいる」
感謝の思いをペダルの一こぎに込める。(編集部・深澤友紀)
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■自転車
「バンク」と呼ばれる傾斜のある競技場を走るトラック競技と、一般の道路を走るロードレースがある。クラスは使用する自転車で四つに分かれ、切断や機能障害などの選手が乗る通常の二輪自転車以外に、脳性まひなど重度の四肢障害者の三輪自転車、視覚障害者が目の見える選手とペアを組む2人乗り用タンデム自転車、下半身不随の選手用のハンドサイクルがある。
※AERA2019年9月9号に掲載