──「私は小松さんの文学的なところばかりを勉強してきた」とかつてインタビューでお答えになっていましたが、小松左京文学の魅力はどんなところにあるのでしょうか。
筒井:テーマの重さが魅力でした。シリアスな長篇が小松さんの本領だったと思いますが、そのストーリイテラーとしての力量も並外れていました。細かい部分の話の持って行き方や、人間と人間の関係性(関係ではなく)を描くタッチも学ばせてもらいました。エンタメも雑には書かず、きちんとした首尾一貫性を保っていました。
──私(記者)は星新一さんのショートショートで社会を、小松左京さんの小説で世界と宇宙を、そして筒井康隆さんの小説で人生と哲学を学んできました。コロナが席巻する現在、死や無、文明の崩壊、その一方、未来への期待もある“SF作品”が読まれるべきだと個人的には考えております。SF、ないしは文学の未来についてどうお考えでしょうか。新作『ジャックポット』も今こそ重要な書だと確信しています。
筒井:未来については楽観的です。新人が常にデヴューしていますから安心しています。最近は文学賞の候補作しか読んでいませんが、純文学の谷崎賞、エンタメの風太郎賞、どちらにもいい作品がありますから、未来は明るいように思います。
──「小松ロケット」で宇宙へ送り出された小松さんは、今の地球をどうご覧になっていると思いますか。
筒井:申し訳ありませんが、私は死後の世界を信じませんので、虚無の世界にいる小松さんの、今の地球への想いや見方はまったくわかりません。ただ、もし小松さんが生きていたら、現在は過去にない世界なので、小松さんの発言は過去にない新たな示唆を含んだ発言であろうと思います。とても私が替わりに答えられるようなものではない筈です。
──最後に、やはり小松の親分は、ロマンチストでしたか。
筒井:当然です。あの膨大な知識を蓄えた頭脳の中には尽きせぬロマンの泉がありました。三冊の「女シリーズ」でその一端が窺(うかが)えるでしょう。ついでに「親分」という言葉に反応して申しますと、彼は確かに親分肌で、後輩に親切でした。あくまで昔の話ですが、私を韓国料理に連れて行ってくれて、冷麺の旨さに目覚めさせてくれましたし、上京してホテルが取れなくて困っているときも、彼に電話したら「よしきた」と言ってホテルニューオータニの部屋を取ってくれたり、これは「あいつを消してくれ」と頼んだらよしきたと言ってやってくれるのではないかとまで思ったものです(笑)。晩年はお目にかかる機会が少なくなって残念でしたが、もっとお逢いしたい人でした。
(本誌・鮎川哲也)
※週刊朝日 2021年8月6日号