ずらりと並ぶ「ネコのペンおき」1~3シリーズのネコたち。ギリシャ神話のアトラスのように天空をも支えられそうだ(撮影/写真部・高橋奈緒)
ずらりと並ぶ「ネコのペンおき」1~3シリーズのネコたち。ギリシャ神話のアトラスのように天空をも支えられそうだ(撮影/写真部・高橋奈緒)
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 カプセルトイ、「ネコのペンおき」シリーズが人気だ。ヒットの背景には追求された「かわいい」と実用性、さらには人の心を掴む黄金比があった。AERA2021年7月12日号から。

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 ネコが重量挙げのように、ペンを高々と掲げ立っている。

 そのフォルムを見た瞬間、不思議な高揚感を覚えたんである。天に向かって突き出された両手、踏んばった両足、ぱっちりした目ときゅっと引き結んだ口元。

 ふだんそんな習慣はまるでないのに、気が付けば駅構内に設置されたガチャガチャをまわしていた。しかも2回も。

 カプセルトイ、「ネコのペンおき」が人気だ。その名の通り、ペンを置くことのできるネコのフィギュアで、体長は5.5センチほど。

■百万個超の異例ヒット

 ガチャガチャ好きの女性(50)も、検索トピックで見かけ、心を奪われたひとりだ。だが、売れているため品薄なのか、なかなか見つからない。最近になって近所のショッピングモールで発見し、遂に1体を入手した。

「やっと会えたね」

 そんな言葉をかけ、さっそくペンを持たせて撮影、友人に写真を送った。

 その後は、「兄弟を迎えねば」と謎の使命感に燃え、数日のうちに計5体を迎え入れている。

 ネコたちの定位置は玄関の飾り棚だが、テレワークで根を詰めすぎた日には、パソコンまわりに並べて一息つく。すると癒やされるのだという。

 ネコのペンおき第1弾は、2020年5月に発売された。1体300円で、ミケやシロ、クロなど5種類がラインアップされている。SNSで話題になって人気が高まり、写真も次々に投稿された。ヒットを受け、同年12月には第2弾が、今年5月には第3弾が、そして6月には第4弾がリリースされている。今年6月末までの累計販売数は、100万個を優に超える。

 ガチャガチャ評論家の尾松洋明さん(45)は、「異例のヒット」とたたえる。

 ガチャガチャは7~8割がキャラクター商品で、残る2割ほどがノンキャラクター商品だ。大手メーカーがリリースするアニメなどの人気キャラクター商品なら、500万個を売り上げることもざらだ。だが、ノンキャラクター商品は違う。国内30ほどの中小メーカーから毎月200もの新商品がリリースされ、多くは1カ月ほどで消えていく。

「10万個売れればヒットといわれるなか、桁違いの売れ行きでした。普段買わない人が買ったからでしょう。ディスプレーも印象的で、SNS戦略も巧みでした」(尾松さん)

 ペンを持ち上げるネコの雄姿はリアルでもSNSでも見た人を虜にした。ガチャガチャの森やドリームカプセルなど専門店や売り場が増え、20代、30代の大人がカプセルトイを買うようになっていたことも、ヒットを後押しした。

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