
ただ、韓国ブームに嫌悪感を示す人も少なくなかった。背景には改善しない日韓関係にある。18年以降、韓国大法院(最高裁判所)が日本企業に元徴用工への賠償を命じた判決、自衛隊機に対する韓国艦船のレーダー照射などで関係が険悪になり、日本政府が19年7月に始めた韓国向けの輸出管理強化措置に韓国社会が反発。日本製品の不買運動や日本への旅行自粛などを呼びかけるデモが韓国各地で起こり、日韓関係は「戦後最悪」と呼ばれた。
現在も両国の間に緊張した雰囲気が流れる。ただエンターテイメントの世界に国境はない。過去の3回の韓国ブームと違い、今回は「嫌韓」の割合が多かった男性の中高年層で韓国ドラマ、映画の支持を集めているのが大きな特徴だ。
日韓のサブカルチャーに精通している雑誌編集者はその理由を語る。
「韓国は国自体の市場が大きくないので、世界を意識したマーケティング戦略を展開しています。アイドル出身の女優も基本をみっちり身に付けないとドラマに出演できない。俳優陣の実力が非常に高水準だと思います。また、日本のドラマではあまり触れられない外国人労働者、性差別といった社会問題も積極的に発信して、視聴者の関心を引きつけている。韓国ドラマは人間味あふれるキャラクターが多くて視聴者も感情移入しやすい。熱量の凄さは一昔前の日本のドラマに似ていると言われています」。
韓国のドラマを手掛ける脚本家やスタッフは日本のドラマ、映画のファンが多いという。互いに刺激を受けて切磋琢磨することで、良質な作品がこれからも生み出される。「韓国が嫌いだから愛の不時着を見ない」という思考はもったいない。偏見を持たず新しい世界に触れることで、韓国に対する見方が変わるかもしれない。(中町清)