講習会ではまず、基本である立ち泳ぎで自分の体を保つことを学ぶ。立ち泳ぎによって「自分の浮力と、溺れた人の浮力を生まないと救助はできない」からだ。当然のことながら参加者はみな泳ぎに自信がある。それでも、早い人は4日間ある講習の2日目でリタイアするほど立ち泳ぎはきついという。
「でも、まだそれは水着を着て、なんですよ。最終日に服を着た状態で同じことをやってもらうんですけれど、自分の体を保てるのはわずか1割。残り9割の人はすぐ沈みます」
さらに、立ち泳ぎをしながら溺者(溺れた人)の体を動かす「運搬」技術を習得するのだが、服を着た状態で立ち泳ぎができる1割の人でも、溺者を運搬できるのは「せいぜい20メートル」と齋籐教授は言い、こう続ける。
「ほとんどの人が5メートルも動かせない。だから、ちょっと離れた場所まで溺れた人を引っ張っていけば陸に上がれると思っても、実体としてはまったく無理なんです。だから、溺れた人を助けるために、絶対に飛び込んじゃいけないよ、と言っているんです」
■水難はコロナ禍も影響か
だが、斎藤教授は意外な「事実」を教えてくれた。水難にあった中学生以下の子どもと、高校生以上の大人を比べると、子どもの生還率は2倍近く高いというのだ。それはいったいなぜなのか? 齋籐教授はこう説明する。
「水面に『背浮き』になって、プカプカ浮いて待っていれば助かるんです。子どもたちにとって、この『浮いて待て』っていうのは、いまや常識で、できる子どもが多くなっています」
「背浮き」というのは、衣服や靴を身に着けたまま背中を下にして浮く方法だ。斎藤教授によれば現在、プールを利用した「浮いて待て」教室が全国約8割の小学校で実施されているという。
「子どもは水難にあっても、学校で習ったとおりに、ちゃんと浮いて救助を待っている。だから、周囲の大人は余計なことは考えずに、『浮いて待て』と叫んでくれればいいんです。浮いている間に119番通報して救助隊を呼んでください」