写真家・田口るり子さんの作品展「CUT OFF」が10月29日から東京・目黒のコミュニケーションギャラリー ふげん社で開催される。田口さんに話を聞いた。
ときどき、(女の人って、そんなふうに感じているんだ)と、心に引っかかることがあるのだが、田口さんの写真展についてインタビューしたときもそうだった。それは髪の毛ことだった(ちなみに私は自分の髪に何の思い入れもなく、そろそろ床屋に行くか、くらいしか考えたことがない)。
田口さんは私と会うと、作品のプリントの束を机の上に置き(その瞬間、私の体は固まっていた。その理由は後で書く)、唐突に「6月2日に」美容院に髪を切りに行ったことを話し始めた。「バサッと切ったんです」と、胸のあたりを指でさす。切り終わったときは「耳が完全に見えていた」と言うので、40センチ近くも切ったことになる。
「それまでずっとロングだったんです。20年くらいずっと。こんなに短くしたのは二十歳以来です。母が亡くなって、名古屋から上京する前に髪を切って。線を引いて……」
なんだか、情念のこもった恐ろしい話を聞かされているような気がした。写真展と何の関係があるのだろう? でも、それをたずねるのは憚られるような気がした。そんな気持ちを悟られないようにひたすら取材ノートを埋めるふりをした。
後でわかったのだが、髪を切ったころ、田口さんはぼんやりとした不安にさいなまれていたのだ。私もそうだったし、たぶん、多くの人も。
こりゃ、もう裸で、ばっさりと髪を切って
今回の写真展は、田口さんが衝動的に髪を切ることを決め、切られた髪を自分の裸とともに写した作品である。それはインタビュー前に私が思い描いていた、美しい雪原をモノトーンでとらえたようなこれまでのヌード写真とはまるで異質なものだった。その、あまりの落差の激しさにグロテスクに感じたほどだった。なので、作品を見た瞬間、(うそでしょ?)。しかも最初、それが何を写したものなのか、よくわからなかった。
しばらくすると、田口さんが髪を切ったこと、プリントに写った被写体、タイトルの「CUT OFF」の意味が次第に私の頭の中で結びついてきた。そして、疑問が浮かんだ。「なぜ、こんなことを?」。
ことの始まりは、6月に開催されたグループ展「東京2020 コロナの春-写真家が切り取る緊急事態宣言下の日本-」(コミュニケーションギャラリーふげん社)への出品依頼だったという。
「それが急だったんですね。5月末くらいに話が持ち上がって、締め切りが6月4日。それで、困ったな、と思って、『考えてみます』と、返事を濁したんです。そうしたら、(社長の関根)薫さんが、あなたのやりたいようにやっていいから、ちょっと挑戦してみない、という感じで、やさしく諭してくれたんです」
「そうか」と思い、スケジュールを思い浮かべてみると、「6月2日に美容院の予約を入れていたんです。締め切りが4日じゃないですか。で、突然ひらめいたんです。こりゃ、もう裸で、ばっさりと髪を切ってもらっているところを撮るしかないな、と。コロナの期間中、美容院に行けなくて、ずっと伸ばしっぱなしだったんです」。