<断言しますが、日本文化はハイコンテキストで、一見、わかりにくいと見える文脈や表現にこそ真骨頂があるのです>
松岡正剛は『日本文化の核心』の巻頭にこう記し、わかりやすさばかりを求める風潮に釘をさした。
本来は、自ら日本文化を代表する作品群と向きあって何かを感じ、自分なりに会得していくべきものだと。そう指摘した上で、松岡が用意した手がかりが、ジャパン・フィルターだった。
具体的には、客神、米、神仏習合、仮名、家、かぶき、数寄、面影、まねび、経世済民など16のフィルターを通して、日本文化の深部にふれられるよう編まれている。
たとえば、「小さきもの」フィルターでは、ポケモンとかぐや姫、さらには桃太郎や一寸法師が同類として扱われ、出雲神話のスクナヒコナとの共通点にも言及。その展開の面白さにときめきながら、「小さきもの」に大きな世界を見出してきた日本文化の特性を理解できるのだ。
興味深いのは、「かぶき」フィルターでかぶき者とバサラ(婆娑羅)を扱った際、松岡が、コンプライアンスや監視カメラなどに縛られて<多くの現象や表現が衛生無害なものに向かってい>る日本の現状を憂えていた点だった。歌舞伎などの伝統芸能だけでなく、近現代の表現からも過剰なものが登場しなければ、21世紀のこの国の文化は活性化されないから。松岡は新たな荒魂を求めていた。
新型コロナウイルスがいつ収束するかは不明だが、その後の日本を立て直していく時、この本はきっと、いくつものヒントを与えてくれるだろう。
※週刊朝日 2020年5月22日号