世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩くジャーナリスト・丸山ゴンザレスが、取材先でメモした記録から気になったトピックを写真を交えて紹介する。
■アメリカの“集団埋葬地”が意味すること
新型コロナウイルスの猛威はおさまらず、衝撃的なニュースが続いている。なかでも「ロックダウン」したアメリカ・ニューヨークには世界中が注目している。現地で起きていることが連日報道されるなか、ある“ワード”が聞こえてきた。
「a mass grave」つまり、「集団埋葬地」である。
ニューヨークではすでに死者6千人以上、感染者数は10万人を超える。今後も死者は増えつづけていくだろう。犠牲者のなかにはホームレスや貧困層もいる。身元不明の遺体や、身元がわかっても埋葬費用が出せないなど、引き取り手がいないといった事態も出てくる。
そうした行き場のない新型コロナウイルスの犠牲者を埋葬する場所として、ハート島(Hart Island)が使われている。墓をつくるわけでもなく、巨大な穴に棺が敷き詰められ、その後埋められる。その様子が、「a mass grave」と報じられていたのだ。
この言葉、滅多なことでもないと使われることはない。これまでに私が「a mass grave」を耳にしたのは、二度の世界大戦による兵士の埋葬地、約20年におよんだ「ベトナム戦争」、カンボジアで大量虐殺が行われた「キリング・フィールド」、2010年に発生した「ハイチ地震」、イラクやシリアでイスラム国が実行した虐殺現場などだ。
大災害や戦争などで犠牲者の埋葬が追いつかないとき、この「a mass grave」という言葉は使われるのだ。そのことだけで、ニューヨークの現状がいかに危機的な状況なのかが伺い知れる。
ハート島は、約150年前から無縁仏を葬る島として使われてきた。だが、その周辺には“隠れ名所”とでもいうべき観光スポットがたくさんある。「集団埋葬地」として注目が集まってしまったハート島だが、いつか周辺地域とともに多くの人々が観光に訪れる日常が戻ることを願っている。(文/丸山ゴンザレス)