世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩くジャーナリスト・丸山ゴンザレスが、取材先でメモした記録から気になったトピックを写真を交えて紹介する。

【写真】ゴンザレスが遭遇した事故現場

現場にはガードレールもない水路に面した道があるだけ
現場にはガードレールもない水路に面した道があるだけ

■心霊現象を追い求めて

 これまで何度も訪れているタイを、心霊やオカルトの目線で見たことはあまりなかった。だがある時、タイの心霊スポットなどをまとめた『亜細亜熱帯怪談』の著者、高田胤臣氏らタイ在住の友人たちと、オカルトスポット巡りに繰り出したことがあった。

 向かったのは、交通事故で亡くなった人の霊だとか、子どもが運河のなかで遊んでいたなどの目撃情報がある場所だ。なんでも、それらの幽霊のせいで事故多発地帯になっていると地元では噂されているらしい。バンコクから往復100キロの道のりである。距離だけ聞くと身構えるが、高速道路が整備されているタイでは、それほど時間はかからなかった。

サーモグラフィカメラにはなにも映らなかった。幽霊が映ると、その部分の温度は上がるのか下がるのか…。イメージ的には下がるような気もする。いずれにせよ、新兵器は意味なく終わった
サーモグラフィカメラにはなにも映らなかった。幽霊が映ると、その部分の温度は上がるのか下がるのか…。イメージ的には下がるような気もする。いずれにせよ、新兵器は意味なく終わった

 おそらくこのあたりではないかという場所に着いた。現場は、幹線道路に接続している長い一本道で、水路沿いに伸びている。用意したのは懐中電灯とサーモグラフィカメラだ。何か映るかもしれないと撮影したが、結局それらしきものを捉えることはできなかった。

 ガードレールも明かりもない道である。心霊現象どうこうというより、そもそも事故が多いのはあたりまえかもしれない。せっかくのサーモグラフィカメラが無駄になったが、おとなしく帰ることにした。

事故現場。すり抜けていく車や通行人の反応から、タイの人々は交通事故に慣れている感じを受けた
事故現場。すり抜けていく車や通行人の反応から、タイの人々は交通事故に慣れている感じを受けた

■死亡事故が多いタイの“交通事情”

 気づけば真夜中になっていた。往路は早かったにも関わらず、帰路は大渋滞だった。

「こんな夜中になんでだよ」

 原因は交通事故だった。現場には大型バスの下にめりこんだ乗用車があった。その衝撃を想像するに、運転手は生きていないのではないか。そんなことを考えながら、ようやく渋滞を抜けた。すると、運転手を務めていた高田さんがこう言った。

「タイ人って、バカみたいにスピード出すんですよ~」

 その後もタイでの1週間の滞在で、交通事故に出くわすこと3回。タイ国民は自動車の運転でかなりスピードを出すため、死亡事故がやたらと多いのだ。そんなことを言う高田さんも、タイに住んで18年。振り返ってみれば、心霊スポットまでの往路で早く着いたのも、すっかり“タイ人化”した高田さんが、かなりのスピードを出して運転していたからだった。

「そりゃあ死亡事故も増えるよな」

 心霊現象にこそ出くわさなかったが、妙に納得したのだった。(文/丸山ゴンザレス)

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丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス/1977年、宮城県出身。考古学者崩れのジャーナリスト。國學院大學大学院修了。出版社勤務を経て独立し、現在は世界各地で危険地帯や裏社会の取材を続ける。國學院大學学術資料センター共同研究員。著書に『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社新書)など。

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