2番目の質問は、どういう文体で書けば読者に言葉が届くかという、これも本質的な問いだった。私は「書き手にはある種の無防備さが必要だと思う」と答えた。読者からの反論や異議を先取りして、警戒しながら書いた言葉は仮に破綻(はたん)がなくても読者には届かない。読者を「潜在的な敵」と想定して書かれた言葉に読者は胸襟を開いてはくれない。それよりは読者を信じて「お願いだから読んで」と懇請すべきだと思う。人はその言葉が「自分宛て」かどうかを直感的に判定することができる。自分宛ての言葉だと思えば、どれほど分かりにくい話でも真剣に読む。そう言うと、記者たちは深く頷(うなず)いていた。
内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数
※AERA 2022年12月19日号