作家は言葉のプロだ。彼らが他人に対して攻撃的な言葉を発したらどうなってしまうのか。夏目漱石、永井荷風、菊池寛など日本を代表する文豪の随筆、日記、手紙などから「悪口」を集めた。

 興味深いのは志賀直哉と無頼派の応酬。無頼派嫌いの志賀は座談会で織田作之助を「きたならしい」、太宰治を「あのポーズが好きになれない」と酷評。一方、それを聞いた太宰は雑誌に寄稿し、志賀を「教養はなし」「馬面」と罵倒し、小説『暗夜行路』には「風邪をひいたり、中耳炎を起したり、それが暗夜か」と吠える。罵詈雑言の連発に、無頼派の坂口安吾にすら呆れられる。

 本書には太宰に限らず、愚痴をひたすら連ねる文章も少なくない。辟易しそうなものだが読み終えると、彼らのかたくなな姿勢に敬意を示したくなるかも。(栗下直也)

週刊朝日  2019年8月30日号