『13歳からの地政学: カイゾクとの地球儀航海』田中 孝幸 東洋経済新報社
『13歳からの地政学: カイゾクとの地球儀航海』田中 孝幸 東洋経済新報社
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普段から世界地図をよく見る人はどれくらいいるだろうか。テレビのニュース番組などで目にする程度、という人も少なくないだろう。国名や首都などを知ってはいても、どこにあるのかはよく分からない国も多いはずだ。

国家の特性を地理的要因から研究する学問を地政学という。国際的な政治や経済、社会問題を考えるにあたって、地図上の位置関係は重要な意味を持っている。しかし世界を俯瞰し、さまざまな視点から国々のバランスや関係性を読み解くのは簡単なことではない。

そこで地政学の知識や地政学的な考え方を身につけるための一歩目として紹介したいのが、田中孝幸氏の著書『13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社)だ。同書は、高校生の大樹と中学生の杏の兄妹が、アンティークショップを営む年齢不詳の「カイゾク」と呼ばれている男性から話を聞くというスタイルで進行していく。

同書では地球儀が大きな役割を果たすのだが、最近地球儀に触れたことがあるだろうか。改めて眺めると、当たり前だが「地球儀は丸くて青い」。地球儀、つまり地球の約7割は海である。科学技術が進歩し、陸・海・空の交通網が発達した現代でも、貿易の中心は海だという。

「実は世界中の貿易は9割以上が海を通っている。つまり船で運ばれている。

船を使った貿易ができなくなれば、世界の経済は一瞬にして止まってしまう」(同書より)

この海ばかりの地球では、海への影響力が強いほど強い国として存在感を発揮する。世界で一番強い国はアメリカだと言っても、異論がある人は少ないだろう。

「アメリカが超大国と言われているのは、世界の船の行き来を仕切る国であるからだ。アメリカは世界最強の海軍を持ち続けるために、毎年10兆円以上のお金を投じていて、世界各地の海に軍艦を展開している」(同書より)

またアメリカが海で影響力を持っているのは、船の行き来だけではない。情報をやりとりする海底ケーブルも、アメリカが世界で一番多く張り巡らせているという。

「データが通る場所をおさえれば、世界中のデータを盗み見して、ほかの国が知られたくない情報を得ることができる」(同書より)

しかしアメリカが最強の国だとしても、他の国を支配下に置いているわけではない。中国やロシアなど、アメリカに対抗しようとする国もある。中国とロシアは奇しくも日本から地理的に近い。これらの国々とどのような関係性を持つかは日本にとって重要だが、ここでヒントになる考え方が「遠交近攻」である。

「遠くと交わって仲良くしたうえで近くを攻める、ひいては攻められないように準備するという意味だ

国の位置がその国の外交の立場を決めるわけだ」(同書より)

「遠交近攻」を考えると、日本にある米軍基地についてもこれまでとは違った見方ができるかもしれない。とはいえ実際に身近に基地がある人々とそうでない人々の心情は異なる。当然考え方も違うだろう。正解がないからこそ、難しい問題なのだ。

「どちらかが絶対的に正しいことや悪いことはない、立場の違いがあるだけだ。ただ、だからといって世の中に正義がまったくないというわけでもない。相手との立場の違いがあり、それを謙虚にわかろうとした上で、何がより正しいのか考え続けることが大事だ」(同書より)

同書で学べるのは地政学の知識だけではない。地政学をはじめとして、学ぶということへの姿勢についても教えてくれる。

「アインシュタインの名言で、『学べば学ぶほど、自分がどれだけ無知であるか思い知らされる。自分の無知に気づけば気づくほど、より一層学びたくなる』というものがある。一見自分と関係のないような分野の学問でも、取り組んでみれば面白く、役に立つこともある。学校で知識を増やしたり物を考える習慣をつけておけば、君たちをだまそうとする人の言葉にも、立ち止まっておかしいかもしれないと考えることができるようになる。知識を増やすということは、だまされないように武装するということなんだ」(同書より)

同書では他に「独立運動が起こる理由」「なぜアフリカは貧しいままなのか」などにも触れている。難しいテーマだが、タイトルに「13歳からの」とあるように詳しい知識は必要ない。かみ砕いて本質を突いた説明で、子どもから大人まで世代を問わず分かるようにまとまっている。

見慣れた平面の世界地図では気づけない、地球儀から見る世界。「何が」起きているかではなく、「なぜ」起きているのか。世界の仕組みを知ることで、より広くより深く学ぶきっかけにつながるだろう。